よく晴れた翌日…-。
〇〇「ん……」
身支度をすませ、窓を開けて、胸いっぱいに新鮮な空気を吸い込む。
(この国の空気は、すごく澄んでるんだな)
その時、部屋の扉がノックされた。
〇〇「はい」
ユリウス「……オレ」
(ユリウスさん!?)
慌てて扉を開けると、ユリウスさんが立っていた。
ユリウス「街へ、行くぞ」
〇〇「えっ……?」
ユリウス「視察がてら、案内してやる。ここにいても暇だろ?」
〇〇「あ……はい、行きます!」
突然の申し出に驚いて、声が裏返ってしまう。
ユリウス「元気だな、お前」
(あ……笑った)
初めて見たユリウスさんの笑顔に、胸が弾んだ。
ユリウス「朝メシ食べたら、行くぞ」
〇〇「……はい!」
嬉しさがこみ上げ、私も自然と笑い返していた。
城の中と同じく、街も緑とお花でいっぱいだった。
さわさわと葉を揺らす街路樹の下に、可愛い花が並んでいる。
〇〇「お花や木がたくさんあって、とても綺麗ですね」
ユリウス「ああ、この国にしか生えない植物も多いんだ」
ユリウスさんはそう言って、道に咲く花に目をやる。
(昨日は気難しい人なのかなって思ったけど……)
花に向けるユリウスさんの優しい瞳に、私の胸も温かくなる。
〇〇「何というお花なんですか?」
ユリウス「ラナリス。季節によって花びらの色が変化するんだ」
〇〇「色が変わる……素敵ですね!」
ユリウス「だろ? そっちに咲いてるのは、キャルメリアって言って……」
花のことを嬉しそうに説明してくれるユリウスさんが、なんだか可愛くて……
ユリウス「!」
じっと見つめてしまっていると、彼はハッとした表情になって、顔を赤くさせた。
ユリウス「……なんだよ。人の顔ジロジロと見て」
〇〇「いえ……」
(つい、見つめちゃった……)
ユリウス「……」
〇〇「……」
私達の間に、沈黙が訪れる。
その時…-。
??「ユリウス様~!」
振り返ると、女の子達が複数人、私達の方へと駆け寄ってきていた。
街の女の子1「ユリウス様、今日は視察ですか!?」
街の女の子2「お会いできて嬉しいです~!!」
街の女の子3「今度、私にも香水の調合の仕方を教えてくださいっ!!」
街の女の子2「ずる~い! 私だってユリウス様に教えて欲しい!」
ユリウス「あ……ああ……」
彼に押し迫る女の子達にたじろぐように、ユリウスさんが後ずさりする。
(すごい人気……)
ユリウス「わ……悪いんだけど、今客を案内してるんだ。また今度な」
街の女の子達「え~!!」
ユリウス「じゃあな!」
不満げな声を漏らす女の子達にくるりと背を向けて、ユリウスさんは足早に歩き出す。
〇〇「あ……待ってくださいっ!」
私も慌てて、その後を追った…-。
…
……
やっとのことで彼に追いつくと……
〇〇「女の子達、残念そうでしたけど……よかったんですか?」
そう言うと、ユリウスさんは困ったように頭を掻いた。
ユリウス「ああいうの……苦手なんだよ」
ぽつりとつぶやかれた彼の言葉に、私は思わず笑ってしまう。
ユリウス「な、何だよ!」
〇〇「いえ……すみません」
ユリウス「……」
顔を赤くしたまま、ユリウスさんが私をにらむ。
その視線すら、なんだか可愛く思えてしまう。
けれど…-。
私はまだこの時は、彼が抱える闇を知らなかった…-。