いつまでも降り続くと思われた雨は昼過ぎに上がった。
水滴が屋根や草を濡らすなか、雲間からかすかに陽が差し始める。
陽影「〇〇、ずっと部屋の中いても腐っちまう。外にでも出ねーか?」
〇〇「……そうですね」
部屋を訪れた陽影さんに誘われて、私は祭の行われていた市街地へと出掛けることにした。
街の中心は嵐が過ぎ去った影響で、荒れに荒れてしまっていた。
でも大きな事故もなかったせいか、街の人々はようやく見せた青空に晴れやかな表情を浮かべている。
陽影「嵐の規模の割に、街は平気みたいだな。けど、祭の会場は……」
(この前まで、あんなに大勢の人達が楽しんでいたのに)
会場は全て片付けられて、今は閑散とした場所に寂しさが募る。
〇〇「せっかくだから、祭のフィナーレ見たかったですね」
陽影「そうだな。けど、祭はまた来年がある。オレは街の人達が無事ならそれでいいや」
明るい顔をして、街の様子に陽影さんは視線を移す。
(本当に優しい人……)
彼のそんな一面を見ると、心が温かくなる。
(でも、そういえば……)
不意に、祭の最終日に誘われた時のことを思い出す。
陽影「どうかしたか?」
〇〇「陽影さん、祭の最終日に誘ってくれた時、何か言いたそうにしてませんでした?」
陽影「え? ああ……あれは……まあなんでねーよ」
語尾が小さくなり、そのまま彼は私から視線をそらす。
(……何だろう?)
もう一度聞いてみようかな、と思った、その時…-。
街の人々1「まあ……空を見て! 虹だわ、しかも伝承に伝わる三重の虹よ!」
街の人々2「ま、まさか……虹は海から社に向って掛かっているんじゃないのか!?」
やにわに街の人々が空を見上げて騒ぎ始める。
陽影「!!」
(陽影さん……?)
横に立つ陽影さんを見ると、彼も人々と同じように驚き、目を見開いていた。
陽影「そんな、まさか……本当にこんなことが……」
目を丸くしていたかと思えば、陽影さんが、不意に私を輝く強い瞳で見つめる。
陽影「〇〇、ちょっと付いて来い、今すぐ確認しねーと!」
〇〇「えっ!?」
彼は私の腕を強引に引っ張り、その場から弾かれたように駆け出す。
空には、三重の虹がくっきりと浮かび上がっていた…-。