陽影「……やっちまった」
祭りで酔いつぶれたオレは、いつの間にか自分の部屋の布団に運ばれていた。
そうして、まだわずかにぐらつく頭で先ほどの出来事を必死に思い出す。
(えっと……)
―――――
陽影『なあ……オレの側にいろよ?』
○○『……はい』
陽影『約束……だぞ……』
―――――
陽影「……」
……オレの記憶は、そこで途切れていた。
(……え? 嘘だろ?)
(本当にオレ、あんな肝心なとこでつぶれちまったのか……?)
自分の失態を認めたくないオレは、必死に記憶の糸を手繰る。
しかし何度思い出そうとしても、それ以降の記憶は蘇らず…―。
陽影「本当に、やらかしちまった……」
大切な彼女と過ごす最後の夜にやってしまった大失態から、オレは激しい自己嫌悪に陥った。
(はぁ……よりによって、なんであんな肝心なとこでつぶれるんだよ)
(ああ、もう! 明日には○○、帰っちまうってのに……)
(そうだ! 今からでも会いに行って…―)
そう思い立った瞬間、オレは布団から起き上がる。
(いや。でも、さすがにもう寝てるか……)
そうして途端に意気消沈した俺は、再び布団に倒れ込んだ。
陽影「くそっ! 本当に、肝心なとこで何やってんだよオレ……。 最後の夜があんなだなんて、さすがにあり得ねーだろ……」
もどかしさから、つい布団の上で頭を抱えながら転がってしまう。
(ていうか、さっきのオレの言葉……まさか冗談だなんて思われてねーだろうな?)
口にした言葉は、全て本心だったものの……・
(泥酔した挙句、肝心なところでつぶれたやつの言葉なんて信じてもらえるか……?)
(……きっとオレだったら、信じねーだろうな)
陽影「……くそ……」
ああでもない、こうでもないと思い悩むらしくない自分に、心のもやもやがどんどんと増してゆく。
そして…―。
陽影「あー、もう! やめだやめだ!」
限界に達したオレは、もやもやとした気持ちを振り払うかのように勢いよく起き上がった。
(一人であれこれ考えたってどうにもなんねーし)
(明日○○と話せば全部わかるだろ!)
(それにもし仮に信じてなかったとしても、もう一度あの時みたいに気持ちをぶつけるまでだ!)
オレは部屋で一人、拳を握りしめながらそう決意する。
(……よし。そうと決まったら寝るぞ)
(明日は○○、帰っちまうし……)
(そんな時に寝過ごしでもしたら、今度こそ洒落になんねーからな)
オレは布団を被り、目を閉じる。
(……けど……本当に明日、帰っちまうんだな)
そう思った瞬間、心が寂しさに支配される。
(もしオレが、帰るなって言ったら…―)
(……いや、それはやめとこう)
(○○にだって、やるべきことがある。だから……)
(いつかまた、戻ってきてくれりゃそれでいい)
(それにもし戻ってこねーなら、その時はオレが会いに行きゃいいんだ)
寂しさを振り払うように、布団を勢いよく頭まで被る。
そうしていつしかオレは、再び深い微睡の中へと落ちていったのだった…―。
おわり。