太陽7話 夜空の大輪

街は、楽しそうな人々の声に満ち溢れている。

(今日が終わったら、陽影さんとはもうお別れ……)

さきほどから胸に、寂しさが募るばかりだった。

(陽影さんは……どう思っているんだろう)

目の前で出店の店主と話し、かき氷を注文した陽影さんを見る。

(聞いてみたい……)

そう思うものの、今一歩、ほんの少しの勇気が出ない。

(私にも、陽影さんみたいな、思いきりの良さがあればいいのに)

せっかく手にしたかき氷に手を付けない私を見て、陽影さんが眉を上げた。

陽影「何オレのこと見てんだよ。話したいことでもあるのか?」

〇〇「……!」

陽影「ほらな、そうやって変な遠慮すんの、オマエの悪いとこだぞ!?」

コツン、と額を指で弾かれて……

〇〇「痛っ……」

陽影「え!? わ、悪いっ! そんな痛かったのか!?」

慌てて弾いた額を手のひらでさすり、小さな子どもにするみたいに息を吹きかける。

(顔が、近い……!)

〇〇「だ、大丈夫ですよ、ただちょっと……」

陽影「何?」

〇〇「明日になったら、もう帰らないといけないと思うと寂しくて」

陽影「……」

思い切って言ったその言葉に、陽影さんの表情がわずかに暗くなる。

だけどそんな気持ちを吹き飛ばすように彼は豪快に笑った。

陽影「今は、そういう湿っぽいのは、ナシ! 祭を存分に楽しもうぜ!」

〇〇「……はい」

(今は、陽影さんとの時間を楽しもう)

いつもと変わらない陽影さんの様子に、私もそれ以上は何も言わないことにした。

……

やがて太陽は西へ傾き、オレンジから群青へのグラデーションを空に落とした。

私たちは日が暮れると、フィナーレの花火会場へとやってきた。

一般の人々は入れない特別に設けられた席で、空が彩られるのを待ちわびる。

陽影「やっぱ祭には、酒がつきものだよな!」

陽影さんはなみなみと酒の注がれた盃を傾けながら、空を見上げる。

〇〇「大丈夫ですか? さっきから、かなり呑んでいるような」

陽影「だーいじょうぶだって! こんなの水とおんなじ…―」

その時……

〇〇「……っ!」

大きな破裂音とともに、夜空に大輪の花が開いた。

天空で散った光の粒が、私達を照らし出す。

〇〇「綺麗……」

陽影「ああ」

間髪入れずに、何十発もの花火が次々に打ち上がる。

見る間に空は光の洪水に包まれて……

(本当に綺麗……)

音と光が織り成す夏の夜のシンフォニーに、瞬きすら忘れて、私達は夢中になった。

陽影「〇〇」

音の合間に、名を呼ばれた気がした。

〇〇「陽影さん……?」

そっと隣り合って座るまま、彼の指先が私の手に重なる。

空気を振動させる花火の音のせいなのか、その手は少しだけ震えているように感じた。

〇〇「陽影さ…―」

再び、彼の名前を呼ぼうとしたその時…―。

〇〇「っ……」

私の唇に、柔らかいものが押し当てられた。

私より少しだけ熱いそれは……

(陽影さんの……唇……!?)

色とりどりの光が舞う夜空の下、私は陽影さんに口付けられていた…―。

 

 

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