その日以来…―。
陽影さんは祭の最中に顔を合わせると、人々に囲まれていても応えてくれるようになった。
時には手を振り、仲間と共に話に混ぜてくれたり、二人で祭を回ってくれたりする。
(陽影さんといると、すごく明るい気持ちになれる)
(祭の最終日もいよいよ明後日だし、楽しみ……)
だけどその翌日…―。
蓬莱は数年に一度という嵐に襲われてしまった。
朝から降り続けた雨は正午になり、雷雨となり激しさを更に増していた。
陽影「雨、止まねーな……これじゃあ今年は祭のフィナーレは中止か……」
私達は城の窓から、横殴りの雨を眺めては、ため息を吐く。
(せっかく最終日は一緒に回ろうって約束してくれたのに……)
蓬莱の国の人々は、これまでも嵐の度に多くの命を失くしているらしい。
昼過ぎには嵐を恐れ敬い、祈祷師により祈りが捧げられた。
それでも、雨の勢いは増すばかりで…―。
陽影「……」
城の人々も、陽影さんもすっかり意気消沈してしまっている。
私は……
〇〇「雨、止みませんね……」
陽影「ああ……せっかくオマエが来てくれてるってのに、タイミング悪いよな」
依然、表情の晴れない様子に、私は自分にも何かできないかと考えて……
(そうだ……)
〇〇「てるてる坊主、作りましょうか」
陽影「……何それ? トロイメアに伝わる祈祷か何か?」
〇〇「ええと……ちょっと違うんですが、白い布を使って作った人形を窓辺に吊るして、雨が止むようにお願いするんです」
私は陽影さんに頼んで道具を用意してもらうと、彼の前でひとつ実際に作ってみせる。
陽影「へえ……ウマイもんだな」
それから、見よう見まねで陽影さんも同じようにてるてる坊主を作る。
彼が作り上げたのは形は歪んでいたけれど、陽影さんの明るさを反映してか、愉快な表情をしている気がした。
陽影「雨は残念だけど、こういうのは悪くねーなっ!」
窓辺に吊るしては、お互いを見やり微笑む。
〇〇「後は……本当に晴れてくれれば、言うことないんですが」
そっと二人で雷鳴の轟く空を眺める。
陽影「……きっと止むさ! こんなにいっぱい、オマエとテルテルボウズを作ったんだから!」
ニッと笑って、彼は元気づけるように私の肩をポンと叩いた。
その笑顔を見ていると、心がなんだかくすぐったくなった。
そして…―。
(雨が止んでも止まなくても、祭が終われば、私は帰らなきゃいけないんだよね……)
そう思うと、途端に胸がぎゅっと締めつけられる。
外は相変わらず、勢いを弱めることなく、土砂降りの雨が続いていた…―。