晴天の空で太陽が、今日もさんさんと輝いている。
(暑い……)
初日に陽影さんと祭を一緒に楽しんでから、早数日の時が経とうとしていた。
夏越の祭はそれは見事なもので、私はすっかり異国情緒あふれるこの国に夢中になった。
でも……
(陽影さん、今日も街の人達と一緒に出掛けてる)
陽影さんは面倒見のいい性格のせいか、気付くと彼を慕う人々と共に城から姿を消している。
(でも、今日のお昼には特別な祭事で海に集まることになってるから、会えるかな)
私も、賓客としてその祭事に列席して欲しいと、陽影さんのお父様に言われていた。
(そろそろ行かないと)
…
……
祭事は、海を臨む浜辺で巫女が海に祈りを捧げる、これまでとは打って変わった神聖なものだった。
小一時間ほどの後、ようやく全て儀式が終わると、私の隣にいた陽影さんの元にお父様がやってきた。
陽影の父「陽影、相変わらず街の若い衆とばかりつるんでいるそうじゃないか」
陽影「あ? なんだよ親父、別にいいだろ」
陽影の父「悪いとは言っておらん、ただ年頃になっても浮いた噂の一つもないと心配しておったが……」
つと視線が私に向き、お父様は口元に蓄えたひげに手をやり、微笑んだ。
陽影の父「……ようやくお前も一人の女を見初める気になったのか?」
〇〇「……?」
すると、私が話を理解する前に、陽影さんが立ち上がり…―。
陽影「ちげーし! 親父ほんとふざけんな、消えろっ!」
陽影の父「陽影! お前はまたそんな言葉使いを…―」
陽影「おい、もう行くぞ!」
その荒っぽい口調に驚く間もなく、陽影さんに手を引かれ……
〇〇「ま、待ってください」
陽影「うるさい、もう祭事は終わった、こんな堅苦しい所いられるか!」
〇〇「は、はいっ」
陽影さんはお父様の方を振り返ることもなく、私を連れて大股でその場から去ってしまった。
浜辺から遠ざかるように歩き、平原へ出たところで、陽影さんはふと足を止めた。
陽影「……」
(陽影さん?)
私を見る陽影さんのぶっきらぼうな視線に、かすかに戸惑いが見える。
〇〇「……どうかしましたか?」
陽影「すまん。オレのことで勘違いとかされて」
〇〇「い、いえ。私は大丈夫です。それよりお父様とは……?」
陽影「別に、親父にも悪気があるわけじゃねーのは、わかってんだけど……」
そこまで言って顔を酷く歪めると、陽影さんはしばらく視線を伏せた。
そして…―。
陽影「ああ、もう、面倒くせーなっ!」
その場に音を立てて腰を下ろすと、遠い目をして、来た道を眺める。
陽影「今やれることに夢中になって、何が悪いんだよ……。 オレを慕ってくれる奴らがいる、ならその気持ちに応えて面倒みてやって……いいことじゃねーか」
強い日差しを流れる雲が遮って、天から落ちた陰が陽影さんの表情を隠す。
(陽影さんのこんな表情……初めて見た)
(そういえば、祭の初日でも少し寂しそうな目をしていたような……)
私は気になって……
〇〇「何かあったんですか?」
陽影「は、どうして?」
瞳を見開き、陽影さんは不思議そうに私を見つめる。
〇〇「なんだか、寂しそうな顔、してたので……」
陽影「……変な女」
陽影さんが、面白そうに目を細める。
けれどその瞳は、凪の海のように、いつになく静かだった。
陽影「別に聞きたきゃいいけど……オレ、さ…―」
そうつぶやいて、陽影さんは日の陰った空を仰ぎ見て話し出した…―。