第2話 夏の夜

煌々と燃え上がる篝火は、人の数倍ほどの高さにまで炎を揺らめかす。

幻想的な炎に目を奪われていると、気付けばこれまでの騒がしさが嘘のように静かな時が流れていた。

(……え?)

辺りを見渡せば、目に入るのは、二人になった男女達……

人前にも関わらず愛を囁き、互いの存在を確かめようと触れ合うまでに距離をなくす。

〇〇「……」

(お祭りだから……? それとも、この国ではこれが普通なのかな……)

つい、視線の行く先に迷い、小さくなっていると……

陽影「……おい、大丈夫か」

〇〇「え?」

私は……

〇〇「な、何がですか?」

陽影「何が、じゃねーよ。完全にキョドってんじゃねーか」

〇〇「……」

呆れた顔で、おかしそうに陽影さんが肩を揺らす。

陽影「オマエ、どう見ても恋愛ごとには奥手って感じだもんな、城に戻るか?」

〇〇「お城……え?」

陽影「何ポカンとしてんだよ。宿は貸すって事前に伝えてんだろ」

〇〇「あっ……そうでした」

笑いをこらえるように、陽影さんが鼻を鳴らす。

陽影「まあ、オマエがオレとそういう目で見られても平気なら……オレとしては構わないけどな」

〇〇「……っ」

力強い瞳が細められ、唇が大きな弧を描く。

そして彼は私に指先を伸ばして……

〇〇「あ……あの、私は」

篝火に照らされた陽影さんの瞳が、私をじっと見つめている。

(綺麗……)

光が様々な色を映しては移りゆく、何色ともたとえようのないその美しさに見入っていると……

陽影「ばーか、冗談だよ」

〇〇「っ、冗談……!?」

陽影「当然だろ、オレが本気になったらこんな生ぬるいもんじゃすまねーし」

陽影さんはふっと視線をそらし、闇に上がる炎を見る。

だけど、真っ赤な炎に照らされたその横顔は、どこか寂しそうに見えて……

(何を考えているのかな……)

彼の表情は、私の胸にほんの小さな欠片を残していった…―。

 

 

<<第1話||第3話>>