煌々と燃え上がる篝火は、人の数倍ほどの高さにまで炎を揺らめかす。
幻想的な炎に目を奪われていると、気付けばこれまでの騒がしさが嘘のように静かな時が流れていた。
(……え?)
辺りを見渡せば、目に入るのは、二人になった男女達……
人前にも関わらず愛を囁き、互いの存在を確かめようと触れ合うまでに距離をなくす。
〇〇「……」
(お祭りだから……? それとも、この国ではこれが普通なのかな……)
つい、視線の行く先に迷い、小さくなっていると……
陽影「……おい、大丈夫か」
〇〇「え?」
私は……
〇〇「な、何がですか?」
陽影「何が、じゃねーよ。完全にキョドってんじゃねーか」
〇〇「……」
呆れた顔で、おかしそうに陽影さんが肩を揺らす。
陽影「オマエ、どう見ても恋愛ごとには奥手って感じだもんな、城に戻るか?」
〇〇「お城……え?」
陽影「何ポカンとしてんだよ。宿は貸すって事前に伝えてんだろ」
〇〇「あっ……そうでした」
笑いをこらえるように、陽影さんが鼻を鳴らす。
陽影「まあ、オマエがオレとそういう目で見られても平気なら……オレとしては構わないけどな」
〇〇「……っ」
力強い瞳が細められ、唇が大きな弧を描く。
そして彼は私に指先を伸ばして……
〇〇「あ……あの、私は」
篝火に照らされた陽影さんの瞳が、私をじっと見つめている。
(綺麗……)
光が様々な色を映しては移りゆく、何色ともたとえようのないその美しさに見入っていると……
陽影「ばーか、冗談だよ」
〇〇「っ、冗談……!?」
陽影「当然だろ、オレが本気になったらこんな生ぬるいもんじゃすまねーし」
陽影さんはふっと視線をそらし、闇に上がる炎を見る。
だけど、真っ赤な炎に照らされたその横顔は、どこか寂しそうに見えて……
(何を考えているのかな……)
彼の表情は、私の胸にほんの小さな欠片を残していった…―。