レイヴン「私は、生きなければならないのですか……?」
気だるげな夕陽が、彼の頬に影を作っている。
(こんな悲しい顔……はじめて見た)
何も映していないように見える彼の瞳に、次々に涙が溢れる。
(レイヴンさん……)
(私、間違ったことをしてしまったのかな)
(でも……謝ることは、できない)
その空虚な瞳を見つめていると、私の頬に涙が一筋流れ落ちた。
レイヴン「……どうして君が泣くの?」
彼は、涙にぬれた私の頬をそっと拭う。
涙は次々と溢れ出て、彼の手を濡らした。
○○「死ぬなんて、言わないで……」
(ごめんなさい……)
心の中で何度も、何度も彼に頭をさげる。
それを口にするかわりに、彼をそっと抱きしめた。
○○「私にできることなら、何でもしますから……」
その時、凪のように穏やかな夕陽が彼を照らした。
レイヴン「何でも……?」
ふわり……と、あの白い花の香りをのせた風が吹く。
彼の口元が、ゆっくりと微笑みをたたえた……
…
……
翌日…―。
間もなく夕焼けが終わり、夜が訪れようとしている。
(お茶会って……)
一日ぼんやりと過ごしていた私は、レイヴンさんに招かれて、お茶会にやってきていた。
レイヴン「ようこそ」
にっこりと淀みなく微笑んで、レイヴンさんが私を迎えてくれる。
クローディアス「○○様、遅いよう」
すでに席についていたクローディアス君の姿を見ると、少しだけ心が和んだ。
レイヴン「どうぞ」
レイヴンさんが、私のために椅子をひいてくれる。
○○「え……でも……」
―――――
執事『あなた様の左隣は、いつまでオフィーリア様の為に空けられているのですか?』
―――――
案内された席はレイヴンさんの左隣で、私は戸惑い、足を止めた。
(その席は、オフィーリアさんの席なんじゃ……)
レイヴン「どうしたの?」
レイヴンさんが、この上なく優しく笑いかけてくれる。
○○「あの……」
レイヴン「早く。お茶が冷めてしまうから」
戸惑いながらも、私は促されるままに用意された席に腰かけた。
レイヴンさんが、お茶を淹れてくれる。
(この香りは……)
あの白い花の香りがして、私はなぜか息を飲んだ。
レイヴン「どうぞ。熱いから気をつけて。 夕食の前だけど、スコーンも、バケットサンドもあるから」
レイヴンさんは、とても楽しそうに笑ってスコーンを口に運んでいる。
すすめられるままにバケットサンドを手に取ると、彼が微笑みかけてくれた。
レイヴン「美味しいね」
(レイヴンさんが、美味しいって言ってる……)
クローディアス「お兄さま、ぼくもスコーン」
レイヴン「スコーンください。だろう? 夕食が食べられなくなるから、お前はやめなさい」
目の前で繰り広げられる心温まる光景に、私は胸を熱くする。
(よかった……)
レイヴンさんの瞳が、じっと私を見据えていた…―。
…
……
夕焼けが終わり夜に星が昇るころ、私達は晩餐会の準備のため、部屋へと戻った。
レイヴン「さあ、ここに座って」
彼は椅子を引き、私をそこに座らせる。
○○「あの……?」
戸惑う私に鏡越しに微笑みかけると、彼は私の髪にブラシを通しはじめた。
レイヴン「綺麗な髪だね……」
優しく私の髪を撫で、彼は頭のてっぺんに口づける。
(急に、どうしたんだろう)
戸惑いながらも、彼が笑ってくれていることが嬉しくて、私は微笑みを浮かべた。
レイヴン「はい、これでもっと綺麗になったね」
私の前に向き直ると、彼はおもむろに側の花瓶から白い花を一本取る。
(そのお花は……)
ゆっくりとそれが私の耳の上に飾られて……
レイヴン「……よく似合うよ」
その時、空いた窓から大きく風が吹き付ける。
レイヴン「……」
風の音にかき消され、声の続きは聞こえない。
“オフィーリア”口の形はそう言っているように見えた…―。
おわり。