翌日…―。
(これで、よかったんだよね)
私は茜色に染まる空を見上げる。
近づいてくる足音が聞こえ、そっと目を閉じた。
レイヴン「あなたの仕業ですね?」
大きく息を吸い、呼吸を整える。
朝一番でトロイメアの姫として国王陛下に謁見を申し込み、レイヴンさんとクローディアス君のことをご相談した。
その結果、国王陛下は7歳になっただけでは王位継承権を認めず、結婚を望む姫が現れた時に認めることを取り決めたのだった。
○○「はい……」
後ろを振り返り、そう返事をする。
レイヴン「何ということをしてくれたのですか。 私が父に取り消しをもう出ても、聞く耳を持たないでしょう」
夕日を背にしているレイヴンさんの表情は見えない。
レイヴン「なぜ……」
その肩が微かにふるえ、唇から小さなつぶやきが漏れた。
レイヴン「何も知らないくせに……私は……私は……! 弟が7歳になる日だけを目標に生きてきたのです! もうすぐ私は許されるはずだったのです!」
(彼女のもとへ、行くことを……?)
あまりに悲しい言葉が頭の中で響き、私の瞳に涙がにじむ。
レイヴン「父にもう一度かけ合い、取り消してください」
○○「……できません」
真っ直ぐに彼の瞳を見つめ、言い返す。
レイヴン「では、仕方がありませんね」
レイヴンさんの瞳が、鋭く光ったような気がした。
○○「……!」
次の瞬間、私の体はレイヴンさんに軽々と抱き上げられて……
○○「レイヴンさ……」
私をベッドの上に降ろすと、彼は私のブラウスのボタンに手をかける。
○○「や……っ」
抵抗しようと振り上げた手は、あっという間に掴まれて、シーツに押さえつけられてしまう。
レイヴン「さあ、取り消してください。 今の私には、何も失うものはないのです、 こんなことを、されたくはないでしょう……」
一つ一つボタンをはずし、首もとのリボンに手をかける。
○○「嫌……です……」
レイヴン「そうですか。震えているようですが……」
彼は私のブラウスをはぎとり、スカートに手を入れた。
(どうしよう……でも……!)
○○「……私、取り消しません」
震える声で、それでも彼の瞳を見つめてそう言う。
○○「オフィーリアさんのところに行って……それで彼女は喜ぶような人なのですか?」
私の言葉に、彼の指が止まる。
息を飲み、彼は私からそっと手を放した。
レイヴン「……。 ご存知だったのですね……オフィーリアのことを」
○○「ごめんなさい……」
私を見つめる彼の瞳は、窓の外の夕焼け色を帯びて妖しく光っている。
レイヴン「あなたはお優しい。そして、残酷だ。 私は、生きなければならないのですか……? オフィーリアのいない世界に、意味なんてないのに……」
彼の瞳から、涙が零れ落ちる。
(私……間違っていたの?)
(こんな絶望……)
彼から何かが抜け落ちていく。
その資格もないのに、私の瞳に涙がにじんだ…―。