翌日…-。
レイヴンさんにお願いして、私達はクローディアス君を連れてピクニックに出かけていた。
クローディアス「とってもいい天気だね」
〇〇「本当。すごく気持ちがいいね」
レイヴン「クロード、いい天気ですね? だろう」
レイヴンさんが言葉を正すと、クローディアス君が頬を膨らませる。
ほのぼのとした光景に、束の間目を細める。
クローディアス「お兄さま、そんなことより、おいかけっこしよう? ぼくをつかまえられたら、いい天気ですねってちゃんと言うよ!」
そう言うなり、クローディアス君が走り出す。
レイヴン「こら! クロードっ」
私に微かに笑いかけ、レイヴンさんがクローディアス君を追って走り出した。
クローディアス「きゃはは、こっちだよ~、お兄さまっ」
レイヴン「よ~し」
(二人とも、楽しそう)
しばらくして捕まりそうになると、クローディアス君が私のスカートの後ろに隠れる。
レイヴン「ほら、観念して出てきなさい」
クローディアス「やだっ」
クローディアス君にスカートを引かれ、身体がぐらりとバランスを崩す。
レイヴン「危ない……っ」
レイヴンさんが、私の腰に手を回し、私達二人を抱くような形で倒れ込む。
花の絨毯の上で、私達はしばし空を見上げ黙り込んだ。
レイヴン「……」
レイヴンさんが笑い出す。
レイヴン「……は……ははは!」
つられて私とクローディアス君も笑い、花畑にはしばらく、3人の笑い声が響いた。
レイヴン「……こんな風に笑ったのは、いつ以来だろう」
ひとしきり笑うと、彼は笑った自分を悔いるかのように瞳を閉じる。
レイヴン「失礼。もう、帰らなければ……」
クローディアス「どうして? もう少しいたい」
レイヴン「……駄目だ」
立ち去ろうとして、レイヴンさんは思い出したように白い花を摘み始める。
(パーティーで、オフィーリアさんの席に添えられてたお花だ……)
〇〇「レイヴンさん……」
まるで償いのように、必死に取りすがっているように、彼は白い花を摘み続ける。
(これ以上、声をかけられない……)
クローディアス「……!」
その時、クローディアス君が、白い花を手当たり次第にむしり始めた。
レイヴン「……クロード、何してる?」
レイヴンさんの呼びかけにも応じず、クローディアス君は花をめちゃくちゃにし続ける。
レイヴン「やめろ……。 やめろと言ってるんだ!」
クローディアス君を突き飛ばさんばかりの勢いで、レイヴンさんが声を荒げる。
私は何をすることもできず、ただ立ち尽くしていた。
クローディアス「ぼく、白いお花なんてきらい……。 白いお花はお兄さまを遠くに連れていってしまうから、きらいだよ……」
クローディアス君が、声をあげて泣き始める。
レイヴン「クロード……」
小さくうずくまった影を抱きしめようと手を伸ばしたけれど……
その手を力なく降ろし、レイヴンさんは、城の方へと独りで帰ってしまった。
〇〇「クローディアス君……」
私は、残されたクローディアス君を抱きしめることしかできない。
クローディアス「オフィーリアお姉さまは……お兄さまを連れていってしまうの? 〇〇さま、助けて……助けてください……ぼく、うんといい子になりますから」
小さな手の中の白い花が、ただ、悲しい。
澄み切った空を見上げ、私はそっと涙を飲み込んだ…-。