翌日の夕方…-。
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執事『レイヴン様でしたら、熱も下がりお庭で風に当たっていらっしゃいますよ』
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執事さんからそう伺って、私は庭へとやってきていた。
(レイヴンさんの様子が気になる……)
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レイヴン『オフィーリアは身体が弱かったのに……雨の降る中、一日中私に付き合ってくれた。 その夜……熱を出して死んだんだ。 私が殺したも同然だ』
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花の生け垣に向かい、一人佇むレイヴンさんを見つけた。
〇〇「レイヴさ…-」
レイヴン「オフィーリア……もう少しだ」
夕焼けに消え入りそうな声が聞こえ、私は唇を閉ざす。
レイヴン「クロードが7歳になったら……」
(どういうこと……?)
唇に手を当てて、動くことができずにいると……
??「こっち……」
手を突然に引かれた。
〇〇「クローディアス君……」
小さな手に引かれ、私達は物陰のベンチへとやってくる。
クローディアス「あのね……来年、ぼくは7歳になって王位継承権を認められるようになるの。 そうしたら、お兄さまはオフィーリアお姉さまのところにいくつもりなの」
〇〇「え……?」
クローディアス「オフィーリアお姉さまは、お兄さまの婚約者だよ……死んじゃったけど。 ぼく、聞いたの……お兄さまがオフィーリアお姉さまのお墓の前で言ってたんだ。 ぼくが皇太子になれたら、王座が空くしんぱいもないから……って」
クローディアス君は、小さな手をぎゅっと握りしめている。
私は思わずその手を包み込んだ。
クローディアス「ぼく、大きくなりたくない……でもどんどん大きくなっちゃう。 たすけて……〇〇さま」
大粒の涙を流し、大声で泣きはじめたクローディアス君をぎゅっと抱きしめる。
その時…-。
レイヴン「どうしたんだ、クロード」
泣き声に気付いたのか、レイヴンさんがやってくる。
彼は、泣いているクローディアス君を軽々と抱き上げて、優しくその頬の涙をぬぐってあげた。
レイヴン「何があった? 転んだのか?」
小さな弟を見つめる眼差しは、本当に優しくて……
それが、私の胸をますます切なく締めつける。
レイヴン「〇〇様、弟の面倒を見ていてくださったのですか?」
〇〇「いえ……」
私が首を振ると、彼は優しく目を細めた。
レイヴン「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」
そのままクローディアス君を抱いて、レイヴンさんが立ち去っていく。
彼の肩越しに、クローディアス君のうるんだ瞳が、すがるように私を見つめていた。
(……二人の力になりたい)
(でも……私に、何ができるんだろう)
それでも私は、遠ざかっていくクローディアス君に力強く頷いて見せた……