深夜…-。
ふたたび降り出した雨が、しとしとと窓を叩いている。
(レイヴンさん、大丈夫かな)
―――――
レイヴン『オフィーリア……ああ、会いたかった……』
――――
レイヴンさんの様子が気になってベッドから抜け出した私は、彼の部屋の前まで来てしまっていた。
(この声は……執事さん?)
中から、話し声が漏れ伝わってくる。
(どうしよう……)
〇〇「あの……」
微かに声を上げるも、雨の音にかき消されてしまう。
執事「あの日もこんな雨でした……。 思い出してしまわれたのですね」
(あの日……? 思い出す……?)
レイヴン「……じい、お前には何でもわかってしまうんだね」
レイヴンさんの声が泣いているようで、私は息をひそませる。
執事「ええ……うんと幼い頃から、お二人のことをずっとお側で見ていましたから。 このじいも、こんな雨の夜にはいつも思い出してしまいます……オフィーリア様のことを」
レイヴン「……」
執事「姉弟のようにお育てしたお二人がご婚約なさったこと、本当に嬉しゅうございました」
(……!)
レイヴン「けれど、私が彼女を殺した」
執事「馬鹿なことを……!」
レイヴン「だって、そうだろう。公務が忙しくて中々二人きりになれなくて。 私が無理に、オフィーリアを連れ出したんだ。 オフィーリアは身体が弱かったのに……雨が降る中、一日中私に付き合ってくれた。 その夜……熱を出して死んだんだ」
衝撃に、私は思わず口をおさえて立ち尽くす。
レイヴン「私が殺したも同然だ」
執事「……いつまで、ご自分を責めるおつもりなのですか。 あなた様の左隣は、いつまでオフィーリア様の為に空けられているのですか?」
(パーティーの席……ベッド……左側には、いつもオフィーリアさんがいた……?)
胸がどうしようもなく締めつけられて、私はそっと目を瞑る。
執事「あなた様の本当の笑顔を、オフィーリア様が亡くなって以来、じいは見たことがございません。 食事もろくにとらず、ただ公務をこなし、機械的に生きて……。 いつまで……そうしてご自分を罰するおつもりですか?」
―――――
レイヴン『とても美味しいですね。 ……けれど私には、必要ない』
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(あの言葉は……そういう意味だったんだ)
(街に行った時、何にも関心がないように見えたのも)
(美味しいものも、楽しいことも。全部、必要がない……)
(オフィーリアさんに、申し訳ないと思って……)
気がつくと、私は扉からそっと離れ、背を向けて歩き出していた。
胸が軋んで、痛くて……どうしようもなかった…-。