パーティーの翌朝…-。
(昨日、結局レイヴンさんとはあれっきりお話できなかったな)
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レイヴン『オフィーリア……君の好きな花が咲いたよ』
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(オフィーリアさん……どなたなんだろう?)
白く美しい花と、レイヴンさんの寂しげな表情を思い出しながら、ソファに座りぼんやりと窓の外を眺めていると、小さく3回扉がノックされた。
レイヴン「おはようございます」
レイヴンさんが顔を覗かせ、私は慌てて立ち上がる。
レイヴン「ご滞在中、あなたをご案内するよう、父王から申し付けられました」
〇〇「あ……ありがとうございます」
昨夜とは対照的な、固く突き放すような雰囲気に、私は少し緊張してしまう。
(レイヴンさん……? なんだか、昨日と印象が違う)
レイヴン「まずは街にお連れしようかと思うのですが」
その時、レイヴンさんの後ろから小さな影がひょっこりと顔を出す。
クローディアス「お兄さま、いいなあ。ぼくもいきたい」
レイヴン「クロード……いつからそこにいたんだ」
レイヴンさんの強張った表情が、たちまちに緩む
レイヴン「それよりお前、今朝も朝食を食べなかったんだって? ちゃんと食べないと、大きくなれないぞ。食堂に行って、何か食べておいで」
クローディアス君の頭に手を置き、この上なく優しい声で言う。
クローディアス「はあい」
クローディアス君が走り去ってしまうと、彼はまた固い雰囲気をまとった。
レイヴン「失礼致しました。それでは参りましょう、〇〇様」
…
……
レイヴンさんの案内で城下町へとやってきた私は、たくさんの綺麗な品々に心を弾ませる。
〇〇「レイヴンさん、あのキラキラのものはなんですか?」
レイヴン「さあ……なんでしょう? 店主に尋ねてみましょうか」
無感情に答える彼に、私は…-。
〇〇「いえ……店主さんもお忙しそうですし、また今度寄らせてください」
レイヴン「それでしたら、近いうちに城に届けさせましょう」
レイヴンさんは、確認するようにお店の看板に目をやった。
レイヴン「申し訳ありません。お恥ずかしながら、私は視察以外で城下に来たことがなく……。 公務に直接関係の無いものには、明るくないのです」
〇〇「そうですか……」
(もしかして、退屈させてしまっているのかな……?)
(私の案内なんて、ご面倒だったのかもしれない)
隣を歩く彼の横顔をそっと見つめる。
(この街はこんなに綺麗なもので溢れているのに)
(レイヴンさん、何にも関心がないように見える……)
遠くを見ているような彼の横顔を見つめていると、少しだけ胸が締め付けられた。
レイヴン「どうなさいましたか? お疲れでしょうか?」
〇〇「いえ……」
レイヴン「ああ、丁度カフェスタンドが出ていますね。少し休憩しましょう」
テラス席に私を座らせて、レイヴンさんは店主に一言二言、何か声をかけた。
レイヴンさんも向かい側に座ったと思うと、店員達が慌てたように動き、料理が運ばれてくる。
レイヴン「サンドウィッチやローストビーフなどを用意させましたが、よいですか?」
〇〇「は、はい! ありがとうございます。レイヴンさんは、何を?」
ちょうどその時、一杯のコーヒーが運ばれてきた。
レイヴン「私は、コーヒーを」
私の問いに、彼は優雅な仕草でカップを持ちあげてみせる。
(そういえば……レイヴンさん、昨日もほとんど食べ物を口にしていなかった気がする)
白い頬に、細い顎の線……そして、遠くを見つめる冷たい眼差しに、どうしようもなく、心配な気持ちが募っていった…-。