会場は人々の熱気に包まれていて、気を抜くと飲まれてしまいそうだった。
マーチア「次はこれかな!」
その後も、ポーカーにブラックジャック、ルーレットと、私達は様々な勝負を楽しんだ。
マーチアはこの手の賭け事が得意らしく、特にポーカーで見せたディーラーとの駆け引きは圧巻だった。
マーチア「ハハッ、今夜も大勝利だね!」
〇〇「マーチア、すごい……!」
マーチア「オレをお茶会を開くだけのウサギだと思ったら大間違いだよ。 さあ、夜はまだまだこれからだよ? もっと、もーーーっと楽しい遊びもオレが教えてあげるね」
そう言って、マーチアが私の腰元を抱き寄せる。
唇に笑みを浮かべる彼は、昼間に見る彼とはまた違った表情で……
私の気分は、不思議に高揚していた…―。
カジノを出た後も、マーチアは私を様々な店に連れて行ってくれた。
今マーチブローで流行りのミュージカルに、美味しいお酒が自慢の彼行きつけのバー。
マーチア「あー、楽しい! ほんっと夜遊びって最高!!」
散々遊び歩いているうちに、すっかり深夜になってしまっていた。
マーチア「〇〇ちゃんも楽しんでくれた?」
〇〇「う、うん……!」
めまぐるしいまでに遊び歩いた私の口からは、上手く感想も出ない。
(楽しいというか、なんだか初めてのことばかりで、どきどきした)
その時、ふと視線を感じて振り返ると……
マーチア「……」
夜の街の光に照らされたマーチアの瞳が、じっと私を映し出していた。
〇〇「どうしたの?」
マーチア「よかった……」
〇〇「え?」
マーチアが、私に甘えるように擦り寄って、髪に顔を埋めた。
マーチア「やっぱり皆の言うアリスより、こうやってオレの目の前で驚いたり楽しんだりしてくれる君の方がいいや」
〇〇「アリスより……?」
マーチア「そ。俺さ、やっぱちょっと気になっちゃってたんだけど」
彼の部屋にあった、大事そうに置かれていたおじい様のティーカップのことを思い出す。
マーチア「好奇心ってヤツ? 皆があんまり楽しそうにアリスのこと話すから、会いたいって思ってたけど。 俺にとってのワンダーメアは、アリスのいないこの世界なんだ、それでいい……」
マーチアの吐息からは、さきほど二人で飲んだお酒の甘い香りがした。
マーチア「ね、次はどこに行こうか?」
〇〇「え……まだ遊び足りないの!?」
目を丸くした私の唇を、人差し指で塞ぎながらマーチアが笑う。
マーチア「今日はオレが満足するまで、〇〇ちゃん、付き合ってよね!」
〇〇「あっ、待って…―!」
マーチアが、私の手を強引に引っ張って、駆け出した。
(確か、今日は私へのお詫びって話だったような……)
彼の奔放さに、呆気に取られる私には構わずに、マーチアは夜の街を巡り続ける。
マーチア「次はお気に入りのダーツバーがいいかな? それともビリヤードなんかもいいね」
〇〇「ダーツ? ビリヤード!?」
マーチア「ははっ、何心配そうな顔してるの? オレが手取り足取り教えてあげるから大丈夫だよ!」
〇〇「で、でも……」
マーチア「それで、遊び疲れたら今度はタワービルの屋上で夜景を楽しみながらもう一杯といこうよ」
〇〇「さっきあんなに飲んだのに…―」
マーチア「余裕、余裕!」
そうは言うけれど、よく見るとほんのり頬が赤くなっている。
マーチア「これからも、〇〇ちゃんのこと、オレ色に染めてあげる」
私の方に振り向いたマーチアの赤い顔が、眼前に迫ったかと思うと…―。
〇〇「!!」
彼の唇が、私の唇に軽く触れた。
〇〇「……っ!」
マーチア「ハハッ! おっかしい~! キスをする時も目を開いたままなんて」
触れた唇の感触と、この上なく楽しそうに笑うマーチアに、頬がますます熱を持っていく。
マーチア「〇〇ちゃんには、教えてあげなきゃいけないことがいっぱいあるなあ。 今夜は、朝まで俺が面倒みてあげるからね」
〇〇「え…―」
言葉を紡ぐ前に、マーチアの手が私の前髪を掬いあげる。
そして額に、柔らかなキスが落とされて…―。
マーチア「うん! 今は、これくらいが〇〇ちゃんにはちょうどいいかな」
唇が離れ、何事もなかったかのようにマーチアは笑う。
マーチブローの街の光が、明るく私達を照らし出している。
彼との真夜中のデートは、まだまだ終わらないようだった…―。
おわり。