太陽7話 夜のマーチブローで

景色が、飛ぶように移り変わって行く…―。

マーチアは城の屋根から屋根に飛び移り、平原を駆け、マーチブローの街へと私を連れ出した。

夜のマーチブローの町は、きらびやかなネオンに包まれ、その中を大勢の人々が行き交っていた。

〇〇「こんな夜中なのに、賑やかだね」

マーチア「マーチブローは歓楽の街だからね。夜は昼間とはまた違った顔を見せるんだ。 〇〇ちゃんは、夜のマーチブローは初めてでしょう?」」

〇〇「うん!」

耳元で名前を呼ばれて、くすぐったい気持ちになる。

(そういえば、いつの間に名前で呼んでくれるようになったんだろう)

マーチア「君って、とっても普通で真面目だけど、笑顔はオレの好みだから……。 オレが直々にこの街での遊び方を面白可笑しく教えてあげる。 だから、オレ好みの遊びのわかる女の子になりなよね!」

〇〇「マーチア好みの……女の子?」

勝手なことを言われているはずなのに、なぜだか胸が弾んでしまう。

マーチア「そそ、遊びと粋なお金の使い方と恋の楽しみ方を知ってる、オレ好みの女の子。 手始めに、この辺から行ってみようか?」

そう言って彼は私の手を取り、飛び跳ねるようにして、夜の喧騒の中を進んでいった…―。

……

マーチアに連れてこられたのは、メインストリートに店を構える、いかにも高級そうなブランドショップだった。

マーチア「これ! これがいいよ!!」

マーチアは、大人びた黒のシックなドレスを私に見繕ってくれた。

〇〇「ちょっと私には大人すぎるかも…―」

マーチア「いいからいいから!」

彼に促されるままに、試着室でドレスを着てみる。

(なんだか、恥ずかしい)

マーチア「〇〇ちゃん、まーだぁ!?」

店内いっぱいに響き渡りそうなマーチアの声に、慌てて姿を見せると…―。

マーチア「うん、思った通り。君こういう服もなかなか似合うね」

マーチアが、歯を見せて楽しそうに笑みをこぼす。

マーチア「それじゃ準備もできたことだし次行こうか」

〇〇「え? これ、着たまま?」

マーチア「そ! もう会計は済んでるから」

〇〇「わ、悪いよ…―」

そう言おうとした私の唇に、マーチアの人差し指が添えられる。

マーチア「俺を誰だと思ってるの? マーチブローの街は、俺のモノだし。 それに、今日は君へのオワビなんだ! 君はさ、もっと贅沢しちゃっていいんだよ!」

〇〇「贅沢……?」

マーチア「そ、贅沢」

マーチアが隣に立って、私の腰に手を回す。

マーチア「さ、姫サマ、行きましょう?」

彼の手の温かさを感じながら、これから始まる時間に期待を膨らませた…―。

……

次にやってきたのは、街の中心にある大きなカジノだった。

マーチアが、入り口の黒服の男性に軽く手を上げる。

黒服の男性「……」

すると、その男性に頭を深く下げられて、私達は中に招き入れられた。

豪華絢爛なホールの中は、人々の熱狂と欲望が渦巻く、初めての世界だった。

〇〇「すごい……こんな所、初めて来た」

マーチア「だろうね、見た目からして君こういう場所で遊ぶタイプじゃないし」

人々が勝負の行方に歓喜や無念の声を上げる様子に、私は胸元で、速くなる動悸を押さえるように手を握った。

マーチア「……んー、これなら君でもできるんじゃないかな?」

マーチアに勧められて座ったのは、”100BET”という文字が光るスロットの前だった。

マーチア「はい、これ!」

いつの間にか彼が換金していたメダルを渡され、投入してレバーを引くよう促される。

(初めてだ……ええと)

緊張の面持ちでタイミングを合わせてボタンを一つ、二つと押していくと……

マーチア「やるじゃん、リーチかかった! ここはオレも協力して……」

マーチアの指先が、ボタンの手前でスタンバイしていた私の指先に重なる。

マーチア「せーのっ!」

掛け声に合わせて、彼と一緒に最後のボタンを押した瞬間…―。

けたたましくファンファーレが鳴り響いた。

マーチア「やったぁ! 大当たりっ!!」

〇〇「嘘!?」

排出口から音を立てて吐き出されるメダルの勢いが止まらない。

口元を手で押さえた私の横で……

マーチアは得意げに、ウィンクをして見せた…―。

 

 

 

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