景色が、飛ぶように移り変わって行く…―。
マーチアは城の屋根から屋根に飛び移り、平原を駆け、マーチブローの街へと私を連れ出した。
夜のマーチブローの町は、きらびやかなネオンに包まれ、その中を大勢の人々が行き交っていた。
〇〇「こんな夜中なのに、賑やかだね」
マーチア「マーチブローは歓楽の街だからね。夜は昼間とはまた違った顔を見せるんだ。 〇〇ちゃんは、夜のマーチブローは初めてでしょう?」」
〇〇「うん!」
耳元で名前を呼ばれて、くすぐったい気持ちになる。
(そういえば、いつの間に名前で呼んでくれるようになったんだろう)
マーチア「君って、とっても普通で真面目だけど、笑顔はオレの好みだから……。 オレが直々にこの街での遊び方を面白可笑しく教えてあげる。 だから、オレ好みの遊びのわかる女の子になりなよね!」
〇〇「マーチア好みの……女の子?」
勝手なことを言われているはずなのに、なぜだか胸が弾んでしまう。
マーチア「そそ、遊びと粋なお金の使い方と恋の楽しみ方を知ってる、オレ好みの女の子。 手始めに、この辺から行ってみようか?」
そう言って彼は私の手を取り、飛び跳ねるようにして、夜の喧騒の中を進んでいった…―。
…
……
マーチアに連れてこられたのは、メインストリートに店を構える、いかにも高級そうなブランドショップだった。
マーチア「これ! これがいいよ!!」
マーチアは、大人びた黒のシックなドレスを私に見繕ってくれた。
〇〇「ちょっと私には大人すぎるかも…―」
マーチア「いいからいいから!」
彼に促されるままに、試着室でドレスを着てみる。
(なんだか、恥ずかしい)
マーチア「〇〇ちゃん、まーだぁ!?」
店内いっぱいに響き渡りそうなマーチアの声に、慌てて姿を見せると…―。
マーチア「うん、思った通り。君こういう服もなかなか似合うね」
マーチアが、歯を見せて楽しそうに笑みをこぼす。
マーチア「それじゃ準備もできたことだし次行こうか」
〇〇「え? これ、着たまま?」
マーチア「そ! もう会計は済んでるから」
〇〇「わ、悪いよ…―」
そう言おうとした私の唇に、マーチアの人差し指が添えられる。
マーチア「俺を誰だと思ってるの? マーチブローの街は、俺のモノだし。 それに、今日は君へのオワビなんだ! 君はさ、もっと贅沢しちゃっていいんだよ!」
〇〇「贅沢……?」
マーチア「そ、贅沢」
マーチアが隣に立って、私の腰に手を回す。
マーチア「さ、姫サマ、行きましょう?」
彼の手の温かさを感じながら、これから始まる時間に期待を膨らませた…―。
…
……
次にやってきたのは、街の中心にある大きなカジノだった。
マーチアが、入り口の黒服の男性に軽く手を上げる。
黒服の男性「……」
すると、その男性に頭を深く下げられて、私達は中に招き入れられた。
豪華絢爛なホールの中は、人々の熱狂と欲望が渦巻く、初めての世界だった。
〇〇「すごい……こんな所、初めて来た」
マーチア「だろうね、見た目からして君こういう場所で遊ぶタイプじゃないし」
人々が勝負の行方に歓喜や無念の声を上げる様子に、私は胸元で、速くなる動悸を押さえるように手を握った。
マーチア「……んー、これなら君でもできるんじゃないかな?」
マーチアに勧められて座ったのは、”100BET”という文字が光るスロットの前だった。
マーチア「はい、これ!」
いつの間にか彼が換金していたメダルを渡され、投入してレバーを引くよう促される。
(初めてだ……ええと)
緊張の面持ちでタイミングを合わせてボタンを一つ、二つと押していくと……
マーチア「やるじゃん、リーチかかった! ここはオレも協力して……」
マーチアの指先が、ボタンの手前でスタンバイしていた私の指先に重なる。
マーチア「せーのっ!」
掛け声に合わせて、彼と一緒に最後のボタンを押した瞬間…―。
けたたましくファンファーレが鳴り響いた。
マーチア「やったぁ! 大当たりっ!!」
〇〇「嘘!?」
排出口から音を立てて吐き出されるメダルの勢いが止まらない。
口元を手で押さえた私の横で……
マーチアは得意げに、ウィンクをして見せた…―。