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マーチア『……君ってほんと。会話の弾まないお茶会くらいつまんない。 そんなんじゃ、いつまでたっても恋人の一人もできないよ?』
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その言葉の後……
マーチアさんは、私の反応をクスクスと笑いながら待っているようだった。
(アリスのことは……もうどうでもいいのかな?)
(でも、じゃあ何であのカップを、お部屋に大事そうに飾ってあったんだろう)
考えれば考えるほど、目の前の彼のことがわからなくなってしまう。
〇〇「マーチアさんって……わからない」
ぽつりとつぶやいて、もどかしい気持ちを抑えるように視線を地面に落とす。
すると…―。
マーチア「えっ、ちょ、ちょっと待って! ね、笑ってよ。なんでそんな寂しそうな顔するの!?」
私の顔を見て、マーチアさんは途端にその場でおろおろし始めた。
(……?)
マーチア「うわぁ、どうしよう……女の子を泣かせちゃうなんて、オレ男としてサイテーだ……」
〇〇「え……?」
(別に泣いてはいないけど……)
マーチア「ほらほらこれ見て! ワン、ツー、スリー、ポンっ!」
〇〇「!」
掛け声と共に、マーチアさんは被っていた帽子を手に取り、逆さに向ける。
〇〇「わ……!」
それと同時にその帽子から、いっぱいの花が飛び出してきた。
マーチア「ああもうこうなったらこれも。こっちのこれも! どんどん行くよ!?」
まるで魔法のように彼の指先が触れる先から、店の小瓶やカップより花や小鳥達が飛び出す。
いつの間にか、店の中はすっかり彼が取り出した花や小動物でいっぱいになって…―。
〇〇「すごい!」
彼の魔法に胸が弾み、自然と笑みがこぼれていた。
マーチア「!」
すると、彼はぴたりと動きを止めて……
マーチア「君、いいじゃん!」
〇〇「え?」
マーチアさんの顔に視線を戻すと、彼はそれまで見せたことのないような、無邪気な笑顔を私に向けていた。
マーチア「笑うと可愛い!!」
花が咲いたようなマーチアさんの笑顔が、まぶしくて…―。
(こんなふうに、笑うんだ……)
初めて見る彼の表情に、心がふわりと温かくなった。
その時…―。
店員「お客様……このようなことをされては困ります」
いっぱいに散らばった花や、ちょこちょこと動き回る小動物達を見て、店員さんが険しい表情で私達の方へやってきた。
マーチア「うわぁ、ごめん! 行くよ、〇〇ちゃんっ」
〇〇「え……!」
彼に手をぐいと引かれ、私達は逃げ出すように店を後にした…―。
店員「こらー! 待てーっ!」
マーチア「やっばいっ!」
店先からは私達を追って、店員だけでなく子ウサギや小鳥までもが追いかけてくる。
たちまちに、人通りの多いメインストリートは大混乱に陥ってしまった。
マーチア「あははははは、たっのしい~~!」
騒ぎをものともせず笑うマーチアさんにつられて、私の口元にも笑いがこぼれてくる。
〇〇「なんだか、おかしいね!」
大変な事態なのに、なぜだか気持ちが弾んで、彼に笑いかける。
マーチア「人生は楽しんでこそでしょ。ね、〇〇ちゃんも、もっと笑いなよ」
〇〇「え……?」
突然、ふわりと体が浮いたと思ったら……
私は、マーチアさんに抱き上げられていた。
〇〇「マ……マーチアさん!?」
マーチア「いつまでもつれないなあ。マーチアって呼びなよ」
(マーチア……)
胸の中でその名前を呼んでみると、くすぐったいような気持ちになる。
マーチア「ほらほら、笑いなって」
彼の右目の下の、二つ縦に並んだ泣きボクロがぐっと私に近づく。
マーチア「だって、君、笑った方が可愛いよ。 いつも真面目な顔してるから気付かなかったけど、君ってこんなに可愛かったんだね」
〇〇「っ!」
触れるだけのキスが頬に落ちてきて、その柔らかな唇の温度に、頬が熱くなった。
マーチア「ごめんよ、これまでヒドイこと言ったりして。謝るから今までのことはチャラにして?」
軽く唇に浮かべた彼の笑みは、まるで甘いお菓子のようで……
(まったく……)
甘い心地良さを感じながら、私も彼に微笑み返していた…―。