ジョシュアさんに連れられて、店を出た後…一。
ジョシュア「もう一軒、寄りたい店があるんだ」
◯◯「えっ?」
(確か、渡したいものがあるって聞いたと思ったけど……?)
ジョシュア「すぐ近くだから」
私の腰に手を回し、ジョシュアさんが歩き出す。
(どこへ行くんだろう?)
いつも優雅なジョシュアさんの足取りが、どこか弾んでいるように感じられた…ー。
ジョシュアさんが立ち寄ったのは、上品な装飾が店内を彩る、センスのいいブティックだった。
店員「ジョシュア様、お待ちしておりました」
ジョシュア「ありがとう」
ジョシュアさんは店内を見回ることなく、店員さんからショップバックを受け取った。
ジョシュア「用事は済んだよ」
◯◯「もういいんですか?」
ジョシュア「ああ、完璧だ。それじゃ、城へ戻ろうか」
(今度はお城へ?)
隙のないジョシュアさんの笑顔に、私は異論をはさむ余地もない。
(デートの後半は、すっかりジョシュアさんの後についていくばかりだけど……)
(私はまだ、彼への贈り物を選べていない……)
そのことをもどかしく思いながら、ジョシュアさんを見つめる。
ジョシュア「……ほら、皆が見てるよ。レディらしく、優雅に口角を上げて」
(あ……)
ジョシュアさんに言われた通り、私は綺麗に微笑んでみせる。
けれど、すぐに眉がしゅんと落ちてしまい……
ジョシュア「そんな顔しないの」
ジョシュアさんは小首を傾げ、困ったように笑った。
ジョシュア「心配しなくても、デートの続きは、部屋でゆっくり……ね」
◯◯「え……」
ジョシュア「ほら、笑顔」
もう一度なんとか笑顔を作ろうとするものの、胸の高鳴りがうるさくて、私はそっと顔を逸らしたのだった…ー。
…
……
ジョシュアさんの部屋に招かれ、二人でソファに腰かける。
ジョシュア「君に渡したいものがあるって言ったよね」
ジョシュアさんは、先ほどの店で受け取ったショップバックを私に手渡した。
◯◯「これを、私に?」
驚いて尋ねると、ジョシュアさんが嬉しそうに頷く。
ジョシュア「開けてごらん」
(なんだろう……?)
ドキドキしながら、ラッピングされた包みをほどくと…ー。
◯◯「これは……」
女性らしさを引き立てるような、可愛らしいラインのドレスが入っていた。
◯◯「こんなに素敵なドレス、いただいていいんですか……?」
滑らかな絹の手触りに、おのずと胸が高鳴る。
ジョシュア「実は今朝、街に出て選んでおいたんだ。 ひと目見て、君に似合うと思ったから早く渡したくて。 でも、そのせいで気が急いて……エスコート失敗だったかな」
(それも全部、私のために……)
(なのに、私はジョシュアさんに何もできていない)
ジョシュア「◯◯?」
ジョシュアさんの私の名前を呼ぶ声が、胸を甘く震わせる。
◯◯「昨日も、今日も……ジョシュアさんと一緒に過ごせて、とても楽しくて。 素敵な贈り物までいただいて……なのにすみません。私は、ジョシュアさんに何も…一」
ジョシュア「……」
包み込むような彼の眼差しが、私に優しく注がれる。
ジョシュア「◯◯、おいで」
ジョシュアさんは私の手からドレスを受け取り、大きな姿見の前へと誘った。
ジョシュア「思ったとおりだ。このドレスは、君の肌の色によく映える」
鏡の前に立つと、ジョシュアさんがドレスを私の体にあてがう。
◯◯「ジョシュアさん……?」
そっと、彼を振り返ると…一。
ジョシュア「オレへの贈り物なんて、選ばなくていいんだよ」
ジョシュアさんのこの上なく優しい眼差しが、私に注がれていた。
ジョシュア「オレが欲しい物は、君の笑顔なんだから」
◯◯「笑顔……?」
ジョシュア「そう。ほら、レディはいつも笑っていないと……ね?」
◯◯「はい……」
甘い囁きが耳に届き、ドキドキしながらも私はなんとか笑顔を作った。
ジョシュア「……いい子だね」
そう言いながら、ジョシュアさんが私の頬に唇を寄せ…一。
ジョシュア「オレが君を、世界で一番のレディにしてあげる」
◯◯「世界一の……?」
ジョシュア「そうだよ。自信がないなんて言わせない」
彼の吐息がかかる度、くすぐったくて首筋をすくめる。
◯◯「はい……言いません」
鏡越しにジョシュアさんを見つめ、そっと笑いかける。
◯◯「ジョシュアさんの隣に立てるような、立派なレディになりますから」
(それを、ジョシュアさんが望むなら……)
胸に生まれた決意をロにすると、彼はわずかに目を見張り…ー。
ジョシュア「その言葉が、何よりの贈り物だよ」
淡い緑色の瞳が、誇らしげに細められる。
ジョシュア「そして、いつか……オレのためだけに、世界一の笑顔を見せて……?」
(ジョシュアさんのために……)
ジョシュアさんが、私の背中を包むように抱き寄せる。
触れ合わせた唇に、チョコレートよりも甘いキスを贈ってくれた…ー。
おわり。