ショコラショップを出るころには、日が傾き始めていた。
ジョシュア「○○、これを」
そう言いながら、ジョシュアさんが私に紙袋を差し出す。
○○「あ……ありがとうございます」
私は少しためらいながら、チョコレートを受け取った。
ジョシュア「……。 たとえ自分の気に入らない贈り物をもらったとしても、笑顔でお礼を言わなければならない」
○○「え…ー」
ジョシュア「……って、いつもだったら言うところだけど、君にそんな顔をさせるオレも悪いね。 ……それじゃない方がよかったかな?」
ジョシュアさんは私の顔を覗き込むように、そっと背を屈める。
○○「いえ!違うんです、そういうわけじゃ…ー」
慌てて首を横に振り、笑顔を作る。
○○「嬉しいです…… 大切にいただきますね」
言葉とは裏腹に、複雑な感情が胸にこみ上げる。
(ジョシュアさんの思い出のチョコレートをもらえて本当に嬉しい。けど……)
(……私も、ジョシュアさんに何か贈り物をしたい)
けれど、何もかもが完璧な彼に贈るに相応しい物が、ちっとも浮かばなかった。
ジョシュア「すっかり夕方になってしまったね。疲れただろう? 一日中、付き合わせて悪かったね」
(あ……)
ジョシュアさんは私の腰に手を回し、優しくエスコートしてくれる。
ジョシュア「城まで送っていこう」
ジョシュアさんの穏やかな瞳が、私の歩みを促す。
(もう少しだけ…… 一緒にいたい……)
○○「ジョシュアさん…… もしよろしければ、この後……」
ジョシュア「え、何か言った?」
雑踏に紛れ、私の声は届かなかったらしい。
○○「いえ、あの……」
(この気持ちを、どう伝えれば……)
けれど、肝心な言葉が言えずに口ごもってしまう。
ジョシュア「遠慮しなくていい。ショコルーナの招待を受けたなら、宿泊先は同じはずだから」
そう言って、ジョシュアさんが私に手を差し出した。
流れるように完璧なエスコートを受け、甘いときめきが胸に広がっていく。
(今日はこのまま、お城へ帰ろう……)
思いを定め、そっとジョシュアさんと手を重ねると…ー。
ジョシュア「……しばらく会わないうちに、すっかりエスコート慣れしたんだね」
○○「えっ?」
ジョシュア「……少し妬けるな」
そうつぶやくと、ジョシュアさんは私から目を逸らす。
(ジョシュアさん……?)
普段は見ることのできない姿に、胸の鼓動が甘く音を立てた。
ジョシュア「……ごめん、君を困らせたね」
ジョシュアさんはきまり悪そうに、そっとはにかんでみせる。
ジョシュア「そうだ、このパッケージに…ー」
彼はチョコレートの箱を取り出し、私に見せてくれた。
そこには、ショコルーナの美しい飾り文字が記されていた。
○○「なんて書いてあるんですか?」
そう尋ねると、ジョシュアさんは静かに微笑み……
ジョシュア「一粒のショコラに、ほんの小さな勇気を乗せてー」
(ほんの小さな勇気……)
ジョシュア「素敵な言葉だと思わない?」
○○「はい……」
(今の私に、必要な言葉だ……)
ジョシュア「だからオレは…… この言葉の恩恵に与ろうと思う」
○○「え……?」
暮れなずむ空を背に、ジョシュアさんが言葉を紡いだ。
ジョシュア「明日…… 君の時間を、オレにくれないかな?」
○○「ジョシュア……さん?」
そう言ったジョシュアさんは気品に溢れていて、やっぱりとても美しいのに……
彼の瞳は、ほんの少しだけ不安そうに揺れている気がしたのだった…ー。