ジョシュアさんに手を引かれ、混雑するショコルーナの街を歩く。
ジョシュア「○○、大丈夫?」
○○「はい、なんとか……」
先程からずっと、チョコレートも溶かしてしまいそうな、人々の熱気に包まれていた。
(これじゃ、買い物を楽しむ余裕もないかな?)
ジョシュア「地図によると、裏通りにもいくつかショコラショップがあるらしい。 大通りを離れると、混雑も避けられそうだね」
私を気遣って、ジョシュアさんが行き先を考えてくれる。
(すごいな…… どんな状況でも凛としていて。 それに…ー)
ジョシュア「どうしたの?」
○○「あ、いえ…… ジョシュアさん、優しいなって思って」
ジョシュア「へえ……」
ジョシュアさんが面白そうに淡い緑色の瞳を細めた。
ジョシュア「オレのことを優しいだなんて。 じゃあ今度はとびきり厳しいマナーレッスンを用意してあげるよ」
○○「そ、それは…ー」
そんな会話を交わしながらしばらく歩いていくと、細い路地へと続く十字路に差しかかった。
○○「ジョシュアさん、ここから裏通りへ行けそうですよ」
ジョシュア「そうだね。行ってみようか」
人混みを避けるように、私達は裏通りへと足を向けた。
(この通りも、やっぱり人は多いけど……)
息も吐けぬほどの人混みを抜けられて、ほっと胸を撫で下ろす。
ジョシュア「この道をまっすぐ行けば、目的のショコラティエだ」
○○「楽しみですね」
どの店のチョコレートも、それぞれ工夫が凝らされていて、見ているだけで楽しめる。
その時、不意に顔を上げたジョシュアさんが辺りに視線を巡らせた。
同じように立ち止まり、背の高いジョシュアさんが振り向いた。
ジョシュア「ああ、すまない……。 今、チョコレートの香りに混じって、紅茶の匂いがした気がしたんだ」
○○「紅茶ですか? もしかしたら、ショコラの紅茶が置いてあるのかもしれませんね」
ジョシュア「実際に、紅茶の茶葉をあしらったチョコレートはあるようだよ」
ジョシュアさんの顔が、嬉しそうにほころんだ気がした。
(紅茶のお店があるなら、ジョシュアさんと行ってみたいな)
道行く人々に紛れながら、きょろきょろと辺りを見渡した。
その時…ー。
(あの看板、もしかして……)
ティーポットの形をした看板を見つけ、私は笑顔でジョシュアさんを振り返る。
○○「ジョシュアさん、あそこに……」
(あれ……?)
振り向いた場所に、ジョシュアさんの姿がなかった。
(さっきまで、すぐ隣にいたのに)
ふと気づけば、裏通りにも人の波が押し寄せ始めていた。
慌てて周囲を見渡すも、ジョシュアさんの姿はどこにもいない。
(ジョシュアさんを探さなきゃ……!)
人混みに紛れれば、このまま会えなくなってしまうかもしれない。
急いで踵を返し来た道を駆け出そうとした時…ー。
ジョシュア「どこへ行くの?」
○○「ジョシュアさん……!」
ジョシュア「まったく…… 心配させないでよ」
ジョシュアさんは私の手を取ると、ぎゅっと力を込めて握った。
ジョシュア「少し目を離した隙に、どこへ行ってたの? 相変わらずおてんばだね。もっと教育が必要かな?」
意地悪そうに目を細めるジョシュアさんに、私は慌てて言葉を返す。
○○「すみません…… あの看板が見えたので、つい」
ようやく見つけた、紅茶専門店の看板を指さすと…ー。
ジョシュアさんもそちらに視線を流し、呆れたように息を吐いた。
ジョシュア「それじゃ君は、オレのために迷子になったわけ?」
○○「そ、そういうわけでは……」
迷惑をかけてしまったことには変わりなく、私は肩をすぼめてうつむく。
ジョシュア「冗談だよ…… 別に怒ってない。 ……ありがとう」
ジョシュアさんは、繋いだ手の指を絡め、もう一度しっかりと手を握り直す。
ジョシュア「せっかくだから、お茶でも飲んで行こうか?」
(ジョシュアさん……)
ジョショア「もうはぐれないでよ?」
その優しい笑顔を見た途端、胸の奥が甘い疼きを覚えた…ー。