第3話 人混みを逃れて

ジョシュアさんに手を引かれ、混雑するショコルーナの街を歩く。

ジョシュア「○○、大丈夫?」

○○「はい、なんとか……」

先程からずっと、チョコレートも溶かしてしまいそうな、人々の熱気に包まれていた。

(これじゃ、買い物を楽しむ余裕もないかな?)

ジョシュア「地図によると、裏通りにもいくつかショコラショップがあるらしい。 大通りを離れると、混雑も避けられそうだね」

私を気遣って、ジョシュアさんが行き先を考えてくれる。

(すごいな…… どんな状況でも凛としていて。 それに…ー)

ジョシュア「どうしたの?」

○○「あ、いえ…… ジョシュアさん、優しいなって思って」

ジョシュア「へえ……」

ジョシュアさんが面白そうに淡い緑色の瞳を細めた。

ジョシュア「オレのことを優しいだなんて。 じゃあ今度はとびきり厳しいマナーレッスンを用意してあげるよ」

○○「そ、それは…ー」

そんな会話を交わしながらしばらく歩いていくと、細い路地へと続く十字路に差しかかった。

○○「ジョシュアさん、ここから裏通りへ行けそうですよ」

ジョシュア「そうだね。行ってみようか」

人混みを避けるように、私達は裏通りへと足を向けた。

(この通りも、やっぱり人は多いけど……)

息も吐けぬほどの人混みを抜けられて、ほっと胸を撫で下ろす。

ジョシュア「この道をまっすぐ行けば、目的のショコラティエだ」

○○「楽しみですね」

どの店のチョコレートも、それぞれ工夫が凝らされていて、見ているだけで楽しめる。

その時、不意に顔を上げたジョシュアさんが辺りに視線を巡らせた。

同じように立ち止まり、背の高いジョシュアさんが振り向いた。

ジョシュア「ああ、すまない……。 今、チョコレートの香りに混じって、紅茶の匂いがした気がしたんだ」

○○「紅茶ですか? もしかしたら、ショコラの紅茶が置いてあるのかもしれませんね」

ジョシュア「実際に、紅茶の茶葉をあしらったチョコレートはあるようだよ」

ジョシュアさんの顔が、嬉しそうにほころんだ気がした。

(紅茶のお店があるなら、ジョシュアさんと行ってみたいな)

道行く人々に紛れながら、きょろきょろと辺りを見渡した。

その時…ー。

(あの看板、もしかして……)

ティーポットの形をした看板を見つけ、私は笑顔でジョシュアさんを振り返る。

○○「ジョシュアさん、あそこに……」

(あれ……?)

振り向いた場所に、ジョシュアさんの姿がなかった。

(さっきまで、すぐ隣にいたのに)

ふと気づけば、裏通りにも人の波が押し寄せ始めていた。
慌てて周囲を見渡すも、ジョシュアさんの姿はどこにもいない。

(ジョシュアさんを探さなきゃ……!)

人混みに紛れれば、このまま会えなくなってしまうかもしれない。

急いで踵を返し来た道を駆け出そうとした時…ー。

ジョシュア「どこへ行くの?」

○○「ジョシュアさん……!」

ジョシュア「まったく…… 心配させないでよ」

ジョシュアさんは私の手を取ると、ぎゅっと力を込めて握った。

ジョシュア「少し目を離した隙に、どこへ行ってたの? 相変わらずおてんばだね。もっと教育が必要かな?」

意地悪そうに目を細めるジョシュアさんに、私は慌てて言葉を返す。

○○「すみません…… あの看板が見えたので、つい」

ようやく見つけた、紅茶専門店の看板を指さすと…ー。

ジョシュアさんもそちらに視線を流し、呆れたように息を吐いた。

ジョシュア「それじゃ君は、オレのために迷子になったわけ?」

○○「そ、そういうわけでは……」

迷惑をかけてしまったことには変わりなく、私は肩をすぼめてうつむく。

ジョシュア「冗談だよ…… 別に怒ってない。 ……ありがとう」

ジョシュアさんは、繋いだ手の指を絡め、もう一度しっかりと手を握り直す。

ジョシュア「せっかくだから、お茶でも飲んで行こうか?」

(ジョシュアさん……)

ジョショア「もうはぐれないでよ?」

その優しい笑顔を見た途端、胸の奥が甘い疼きを覚えた…ー。

 

 

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