愛の日らしい飾りつけをした街を○○に堪能してもらった後…―。
前もって調べていたバーまで彼女を連れてきた。
クレト「さあ、○○。ここに座って」
彼女を席までエスコートすると、いよいよ本番だ。
今まで練習してきた工程を頭の中で浮かべ、気合を入れる。
(よし、やるぞっ!)
すると、カウンターの向こう側に○○の驚いた顔が見えた。
○○「クレト君、お酒が作れるの?」
クレト「へへっ……ちょっとね」
(驚いてる、驚いてる)
(でも、驚くのはまだ早いかもね、っと)
必要なものと、とっておきのリキュールを入れてシェイカーを勢いよく振る。
素早く必要な回数まで振ると、彼女の視線を感じながらグラスにカクテルを注いだ。
その間も彼女は興味深そうに瞳を輝かせていて……
(カウンター越しに姿が見えると、ちょっと緊張しちゃうけど)
(楽しんでくれてるみたいでよかった)
グラスを手に取って、彼女の隣まで移動する。
(よし……作ったら終わりじゃない)
(これからが、本番だ)
心を落ち着かせるため、一つ咳払いをしてから○○の隣に座ると……
彼女の目の前に、グラスを差し出した。
○○「これ……」
(こんな色と香りは、やっぱり気づいたかな……?)
グラスに注がれているチョコレート色のカクテルは、ふんわりと甘い香りを漂わせていた。
クレト「チョコレートリキュールで作ったカクテル。レシピ、俺が考えたんだ……」
驚きに目を大きくする○○をじっと見つめて、深く息を吸い込んだ。
クレト「ほら、今日は大切な人に愛を伝える日でしょ?」
(君は、俺の大切な人。だから……)
クレト「だから、俺もチョコレートで○○に愛を伝えようと思って……飲んでみて」
俺の精一杯の気持ちを言葉にのせると、彼女はゆっくりとグラスに口をつける。
そして、味わうようにこくりと小さく飲み込んで……
(緊張する……)
クレト「……どうかな?」
どうしても感想が気になってしまい、焦って聞いてしまう。
すると……
○○「うん、すごくおいしい……」
(やった!)
聞きたかった言葉に、心の中で大きくガッツポーズをとる。
クレト「よかった……俺、お酒飲めないから……リカさんとかマルタンさんに味見してもらったけど」
(いつか二人で飲める日が待ち遠しいな)
クレト「あ、でも……」
そこまで考えたとき、とある名案が思いついてしまって……
(お願い、してもいいのかな)
○○「クレト君?」
顔が熱くなったけれど、彼女に不思議そうに声をかけられて気がつけば口を開いていた。
クレト「キスしたら……カクテルの味、わかるかも……なんて」
○○「キ、キスっ!?」
(わっ、俺……今、口に出しちゃってた!?)
訂正しなきゃと思うのに、この想いを止めることはできなくて…-。
クレト「だ、だめだよね、だから、今はこれで我慢する!」
動揺する彼女に近づいて、さっと頬にキスを落とした。
クレト「へへへ。ご褒美もらっちゃった!」
(いつか、君と本当のキスをしたいけど……)
(その時は今日よりも、もっともっと君を喜ばせたい)
だから、今は……
この時をめいっぱい二人で楽しむために、彼女の手を取って再び愛の日の街へ飛び出した…―。
おわり。