月最終話 愛の日の味

翌日、夜の帳が下りて…―。

クレト君と待ち合わせした場所へとやってきた。

(クレト君、まだかな?)

今日は、愛の日当日…―。

街はハートのオーナメントやライトが飾られ、それぞれの店にも可愛らしい装飾が施されていた。

(すごい、綺麗……)

(街全体が、甘い雰囲気に包まれてるみたい)

華やかな街の景色を見渡しながら、私はふとクレト君が言ったことを思い出した。

―――――

クレト『ごめん、今は言えない! あっ、そうだ! 明日の夜まで絶対に街へ出ないで!! それで、明日の夜になったら街で待ち合わせがしたいんだ』

―――――

(もしかして、この飾りはすべて……)

クレト「どうかな? 街全体が愛の日に相応しいムードになってる?」

待ち合わせ場所にやってきたクレト君の表情は、少し疲れが滲んでいる。

○○「これ、もしかしてクレト君が?」

クレト「うん、街の皆にも協力してもらったよ。大切な人と過ごすための街をイメージしてみたんだ。 この街でチョコレートを買った人が、最高のシチュエーションで愛を伝えられるようにね」

○○「すごい……!」

(クレト君が一生懸命考えたんだ……)

(一日で、こんなに……)

クレト「○○のおかげだよ! あの男の子へのアドバイスで掴めたんだ! ありがとう」

(クレト君が笑うと、その場が一気に明るくなるみたい)

クレト君につられて笑顔をこぼした、その時…―。

○○「あっ、あの子は……」

少し離れた場所に、昨日街で話をした男の子が、女の子と仲良さそうに寄り添っていた。

クレト「あ! 上手くいったみたい」

○○「うん、そうだね」

かわいい恋人達の姿に、また笑みがこぼれる。

幸せな気持ちで、彼らの姿を見守っていると……

クレト「よし、行こうか」

クレト君は私の手を掴んだかと思うと、そのまま足早に歩き出す。

○○「クレト君、どこ行くの?」

クレト「いいから」

そう言って、クレト君は真剣な顔つきのまま私の手を引く。

(クレト君、いつもと少し雰囲気が違う……・)

少し強引な彼に、私の胸は高鳴って…―。

クレト君が連れてきてくれた場所は、落ち着いた雰囲気のおしゃれなバーだった。

クレト「さあ、○○。ここに座って」

私に席を促すと、クレト君はカウンターの中に入って行く。

○○「クレト君、お酒が作れるの?」

クレト「へへっ……ちょっとね」

リキュールを注ぎ、手際よく氷を入れ、シェイカーを振る。

(あれは……チョコレートリキュール?)

カクテルグラスに注がれたのは、チョコレート色のカクテルだった。

カウンターから出てきたクレト君は、ひとつ咳払いをして私の隣に座り……

スチル(ネタバレ注意)
【スチル】

○○「これ……」

まっすぐな瞳に見つめられ、胸がぎゅっと締めつけられる。

クレト「チョコレートリキュールで作ったカクテル。レシピ、俺が考えたんだ……。 ほら、今日は大切な人に愛を伝える日でしょ?」

(大切な人……)

その言葉が、いつまでも鼓膜をくすぐる。

クレト「だから、俺もチョコレートで○○に愛を伝えようと思って……飲んでみて」

クレト君に促され、カクテルグラスに口をつけてみると……

口の中に、チョコレートリキュールの甘くほろ苦い風味が広がっていく。

クレト「……どうかな?」

○○「うん、すごくおいしい……」

クレト君は、緊張がとけたように顔をくしゃりとさせて笑う。

(可愛い……)

さっきまでの真剣な表情との違いが、なぜか私の胸を騒がせて…―。

クレト「よかった……俺、お酒飲めないから……リカさんとかマルタンさんに味見してもらったけど。 あ、でも……」

何か思いついたようにはっとした後、クレト君は口をつぐんでしまう。

○○「クレト君?」

クレト君の頬が、みるみるうちに赤く染まっていく。

クレト「キスしたら……カクテルの味、わかるかも……なんて」

○○「キ、キスっ!?」

突然の言葉に、私まで頬を熱くしていると……

クレト「だ、だめだよね、だから、今はこれで我慢する!」

(えっ……)

すぐ傍にクレト君の気配を感じたかと思うと、彼が私の頬にキスをした。

クレト「へへへ。ご褒美もらっちゃった!」

甘いチョコレートリキュールの香りが、私を心地よい世界へと誘う。

無邪気に笑う彼の笑顔が、私のまぶたにいつまでも焼きついていた…―。

 

 

おわり。

 

 

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