愛の日当日、チョコレート手作り教室を無事終えた後…-。
クレト「あー! 終わったー!」
〇〇「お疲れ様。皆喜んでくれてよかったね」
クレト「ああ! 〇〇のおかげだよ! 〇〇の男の子へのアドバイスで掴めたんだ」
達成感に包まれながら、ベンチに座って体を伸ばしながら夜空を見上げる。
(少し大変だったけど、やってよかった……)
教室でチョコレートを作っている時の、皆の優しい笑顔を思い出して思わず頬が緩む。
すると……
〇〇「クレト君、これ……」
〇〇に名前を呼ばれ振り返ると、差し出された彼女の手が目に入る。
その手には、可愛らしいラッピングが施された箱がのっていた。
クレト「え! これ……俺に?」
(まさか……〇〇が贈り物をくれるなんて!)
心臓がうるさいくらいに跳ねて、頬が熱い。
〇〇「う、うん……教わった通りおいしくできてるといいんだけど……」
照れているのか、どこか恥ずかしそうに〇〇は俺を見上げる。
クレト「〇〇……」
(あの時、教室で作っていたチョコレート……俺のためだったの?)
クレト「やばい……マジで? 嬉しくて、今日の疲れが全部吹っ飛びそう……!」
彼女からチョコレートを受け取ると、手の中がきらきらと輝いている気がした。
(食べるのは勿体ないけど、食べたい気持ちもあるし……)
(そうだ!)
クレト「あの、さ、一つお願いしてもいい……ですか?」
少し悩んだ後、名案が思いついて思わず問いかけてみたけれど…-。
(マズイ、下手に格好つけようとしてまた変な言葉になっちゃった)
ちらりと彼女の様子をうかがうと、気にしていないようで、彼女に隠れてほっと胸を撫で下ろす。
〇〇「お願い? ……どうしたの?」
クレト「その……食べさせてくれたら俺もっと元気になるかも」
〇〇「えっ……!」
クレト「……」
彼女の顔を覗き込むように、じっと見つめる。
(だめ、かな……)
〇〇は少し考えた後、ためらいがちに口を開いた。
〇〇「……どうぞ、クレト君」
そう言った〇〇がチョコレートを摘まんで俺に一つ差し出す。
(や、やった……!)
飛び上がりたくなる気持ちを抑えて、彼女の腕を引きチョコレートを口に招き入れる。
クレト「ん……」
(あ、今……)
〇〇の指先が唇に触れて、視線を動かすと彼女の頬が赤く染まった。
(かわいいな……)
〇〇「どうかな……?」
(しまった、〇〇に夢中で……)
ぼんやり顔を眺めてしまった自分に気づき、改めて口に広がるチョコレートを味わう。
クレト「うん。やっぱり手作りって気持ちがこもっててあったかい。それに……おいしい」
〇〇「クレト君に褒められるなら、自信持っても大丈夫だね。 それに、今日のクレト君、一生懸命でかっこよかったよ」
(っ……!)
さっきまで恥ずかしそうに俺を見上げていた彼女に褒められて、今度は俺が赤くなってしまう。
(落ち着け、落ち着け……!)
俺はなんとか動揺を隠したくて、床に視線を落とした。
クレト「……! そんなこと言われたらやばいっていうか……勘違いしちゃいます」
〇〇「……勘違いじゃないよ」
(……へ?)
耳に聞こえてきた言葉が信じられずに、思わず口を開けていた。
クレト「本当に……?」
びっくりして顔を上げると、〇〇と視線が交わう。
(〇〇……)
その瞳に吸い込まれるように、顔を近づける。
静かに唇が重なった後、ふわりと甘い香りが漂った。
(チョコだけじゃない、気がする……)
(もっと、この香りを感じたい)
一つわがままが叶うと、人間はもっと欲張りになってしまうらしい。
(でも、がんばったし……)
(このぐらいご褒美貰っても、いいよね?)
もう一度甘い香りを堪能するために、俺はもう一度彼女に顔を寄せた…-。
おわり。