クレト君がチョコレート教室を開こうと決意した、その翌日…-。
愛の日当日ということもあり、街は朝からたくさんの人達で賑わっている。
クレト「今から、簡単で超おいしいチョコレートを教える……教えますっ!」
甘い香りに包まれた広場で、クレト君はチョコレート教室を開いた。
広場の中央にできた人だかりから、クレト君の明るい声が響いてくる。
(クレト君、寝ずにレシピを考えていたのに……)
クレト君の瞳は、いつにも増してキラキラと輝いていた。
(クレト君も皆も、すごく楽しそう!)
クレト君を囲む生徒達を見渡すと、昨日の男の子の姿を見つけた。
男の子は真剣な顔でクレト君の話に耳を傾けている。
クレト「見て楽しい、食べておいしい、気持ちの詰まったチョコレートを作ろう!」
生徒達「はいっ!」
クレト君の言葉に、集まった生徒達は元気に返事した。
クレト「まずは、ガナッシュ作りから始めます」
男の子「クレト王子、ガナッシュって何ですか?」
男の子が手を上げて、クレト君に質問を求めた。
クレト「ガナッシュは、生クリームとチョコレートを合わせて作る手作りチョコレートの基本クリームなんだ。 丸めてトリュフを作ったり、コーティングに使ったりもできる」
手際よくチョコレートを刻みながら、クレト君が生徒達に笑顔を向ける。
生徒達も、クレト君にならってチョコレートを刻み出す。
クレト「かき混ぜる時は、優しく。気持ちがチョコレートに伝わるからね!」
生徒1「クレト王子、このような感じでよろしいでしょうか?」
クレト「うん、ちゃんとクリーム状になってるね。いい感じだ!」
生徒2「クレト王子、私もお聞きしたいのですが……」
クレト「どれどれ? 皆、わからないことがあったらどんどん聞いてー!」
クレト君は、生徒ひとりひとりに丁寧に教える。
(クレト君、教え方が上手……それに、やっぱりすごく楽しそう)
(チョコレートが大好きなんだ)
クレト「基本ができたら、あとはリキュールで味つけして、好きな形に作っていこう」
頼もしい彼の姿に、私は目を奪われてしまっていた。
クレト「〇〇、大丈夫?」
ぼんやりとしていた私を心配したのか、クレト君が顔を覗き込んできた。
〇〇「あっ、う、うん……大丈夫!」
私は、慌てて手元にあるボウルに視線を落とす。
クレト「そっか、あとちょっとだ! ……あ、ちょっとです! がんばろう」
〇〇「うん……ありがとう」
(頬が熱い……)
甘い香りに包まれながら、私達は愛を伝えたい相手のことを思い浮かべる。
(私は…-)
皆それぞれ優しい表情を浮かべながら、チョコレート作りに励んでいた…-。
…
……
そして、チョコレート教室も大盛況のまま終わりをむかえ…-。
クレト「あー! 終わったー!」
広場のベンチに座っていたクレト君が、安堵のため息を漏らす。
〇〇「お疲れ様。皆喜んでくれてよかったね」
クレト「ああ! 〇〇のおかげだよ! 〇〇の男の子へのアドバイスで掴めたんだ」
そう言って、クレト君は思いきり伸びをしてみせた。
(今なら……渡せるかな?)
〇〇「クレト君、これ……」
私は、手作りチョコレートをクレト君に差し出した。
クレト「え! これ……俺に?」
クレト君は、目を丸くして驚いている。
〇〇「う、うん……教わった通りおいしくできているといいんだけど……」
クレト「〇〇……」
いっぱいに開かれたアーモンド形の瞳に映し出され、私の胸の高鳴りも大きくなって…-。
クレト「やばい……マジで? 嬉しくて、今日の疲れが全部吹っ飛びそう……!」
クレト君は、差し出したチョコレートを大切そうに受け取った後…-。
クレト「あの、さ、一つお願いしてもいい……ですか?」
頬を少し赤く染めながら、私に遠慮がちに訪ねてくる。
〇〇「お願い? ……どうしたの?」
クレト「その……食べさせてくれたら俺もっと元気になるかも」
〇〇「えっ……!」
クレト「……」
上目遣いに、じっと彼に見つめられる。
(そんな目で見つめられたら……)
(ちょっと恥ずかしいけど、でも……)
〇〇「……どうぞ、クレト君」
自分が作ったチョコレートを一つ掴み、クレト君の口元へと運ぶ。
クレト「ん……」
ためらいがちな私の腕を引き寄せ、クレト君がチョコレートを味わう。
彼の唇が微かに触れた指先が、ひどく熱くなった。
〇〇「どうかな……?」
クレト「うん。やっぱり手作りって気持ちがこもっててあったかい。それに……おいしい」
〇〇「クレト君に褒められるなら、自信持っても大丈夫だね。 それに、今日のクレト君、一生懸命でかっこよかったよ」
甘いチョコレートの魔法なのか……
胸に浮かぶ思いが素直に言葉になってこぼれていく。
クレト「……! そんなこと言われたらやばいっていうか……勘違いしちゃいます」
クレト君は耳まで赤くして、うつむいてしまった。
〇〇「……勘違いじゃないよ」
クレト「本当に……?」
再び顔を上げたクレト君と、視線がぶつかり合う。
そのまま、お互いの顔が近づいて…-。
(甘い香りがする……)
たくさんの恋人達の愛が伝わり合う、愛の日のショコルーナ……
チョコレートに込められた想いが溶け出す街の中で、私は幸せに酔いしれていた…-。
おわり。