愛の日が近いせいか、ショコルーナの街は華やかな空気に包まれている。
(わ……すごいたくさんの人がいる)
クレト「今年は国をあげて愛の日のためにチョコレートを作っているから。 外からもたくさんの人が来ているんだ」
街には小さい子どもから大人、女の人から男の人まで、たくさんの人達が集まっている。
(皆、幸せそうな顔をしてる。素敵だな……)
そんなことを考えながら、街行く人達を見ていると……
クレト「〇〇、大丈夫?」
〇〇「あ、うん……!」
けれど進むほどに賑わいは大きくなり、人の波に流されてしまいそうになる。
すると…-。
クレト「〇〇、ほら」
クレト君が、私に右手を差し出してくれた。
〇〇「ありがとう、クレト君」
そっと、差し出された手を握ると…-。
(クレト君の手、大きい……)
クレト君の手の中に、すっぽりと私の手が包まれる。
手のひらに、彼の温もりが伝わってきた。
クレト「あっ! ごめん……あの、危ないと思っただけだから、その……。 嫌だったら、手……離していいから! 言って!」
〇〇「嫌じゃないよ……嬉しいよ」
クレト「〇〇……」
クレト君は一瞬大きく目を見開いた後、照れくさそうに微笑んだ。
彼と手を繋いで歩くと、様々な店が競うように新作のチョコレートを発表していた。
(すごい……こんなに種類があるなんて)
虹色のチョコレートや、飴細工が飾られているチョコレート、大きなハート型のチョコレートなど……
ディスプレイに並んでいるチョコレートは、見ているだけで幸せな気持ちになるものばかりだった。
(どれも見た目も綺麗で、食べるのがもったいないなあ)
街の皆も、愛の日を楽しみにしているのが伝わってくる。
店主1「クレト王子! これ試食してみてくださいよ」
店主2「うちのチョコレートも是非、食べてください!」
クレト君に気づいた店の人達に、次々と声をかけられる。
クレト「もちろん! 〇〇も、ね!」
私とクレト君は、出してもらったチョコレートを試食した。
(おいしい……!)
芳醇な香りとまろやかな甘さが、口の中で広がっていく。
どのチョコレートも濃厚で甘く、頬が落ちそうなおいしさだった。
クレト「皆、愛の日に向けて気合が入ってるなあ! どれも、おいしいよ!」
店主1「当たり前ですよ、クレト王子! お客様への愛の気持ちを込めて作ってますからね!」
(気持ちを込めて……か)
ふと、楽しそうに笑う店主さんの店のディスプレイを見やると……
(あれ、あのチョコレート……)
ディスプレイの中央に、ハートが二つに割れたチョコレートが飾られていた。
(ハートが割れてる?……なんでだろう、愛の日なのに)
クレト「どうしたの? 〇〇」
〇〇「このチョコレート、ハートが割れているみたいで……」
店主1「ああ、このチョコレートですか!」
私達の会話を聞いていた店主さんが、自慢げにコホンと咳払いをする。
店主1「これは、二人で食べるとずっと一緒にいられるっていうジンクスがあるんですよ~」
クレト「へえ、ジンクスがあるチョコレートか~。いいね!」
店主1「クレト王子、お連れのお嬢様と食べてみますか?」
店主さんは、私とクレト君を交互に見て、にこやかに微笑んだ。
クレト「ええええ! いやっそれは…」
クレト君は、慌てて顔の前で手を左右に振った。
(二人で食べるとずっと一緒にいられる……本当かな? でも本当なら……)
〇〇「あの……おいしそうだし、私は食べてみたいな」
クレト「えええっ!!」
盛大に驚いた後、クレト君は頬をみるみるうちに赤く染めた。
(つい、言っちゃったけど……)
すると…-。
クレト「あの、えっと……あ、うん! そうだよね、おいしそうだよね!!」
不自然に体を揺らしながら、クレト君は大きな声でそう言ってくれた。
私達は、二つに割れたハートの型のチョコレートを片方ずつ食べる。
(甘い……それに、すごくおいしい)
素敵なジンクスがあるチョコレートを味わいながら……
(ジンクスが本当だったら……嬉しいのにな)
隣でもう片方のハートを食べる彼をちらりと見ると、そう思えてくるのだった…-。