彼女にすふれを預けた後、僕はもう一度ベリー畑へと戻っていた…-。
夜になると、陽当たりのいいベリー畑にも冷たい風が吹きつける。
寒さにぶるりと体が震えたけれど、マフラーを締め直してベリー畑の中に入る。
(お願い、あって……!)
―――――
コロレ『うーん、翌々月から実り始めて、畑が黄色に染まるよ』
〇〇『そうなんですね……残念です』
―――――
彼女が見たがっていたイエローラズベリー……
僕も、どうしても〇〇さんに見てもらいたかった。
コロレ「きっと見たら驚くだろうなぁ」
(見つかるかわからないけど……でも、探してみる価値はある)
(僕のせいで悲しい顔をさせてしまったから……)
(貴方には、笑っていてほしい)
初めて彼女とベリー畑に行った帰り道で、〇〇さんを抱き寄せた時、腕の中にすっぽりと収まる彼女を、女性なんだと実感してしまった。
(あれから、上手く話せなくなってしまうなんて……情けないな)
彼女を一人の女性と意識してしまうと、赤面症と言い逃れられないぐらいに、僕の顔は真っ赤に染まってしまった。
―――――
〇〇『でも……顔もとても赤いですし……』
コロレ『あの、えっと……そう!湯せんのしすぎで部屋が暑いからじゃないかな。 うん、きっとそうだねっ』
―――――
コロレ「はあ……」
自分の情けなさを思い出すと、ため息が漏れる。
恥ずかしさのあまり、ベリーチョコレート作りに逃げてしまったけれど……
(レシピ作りも上手くいかなかった)
(このままじゃ、彼女に会わせる顔がないよ)
コロレ「ベリー畑を全部ひっくり返すぐらいの勢いで、絶対見つけだそう……!」
…
……
それから、ベリー畑を長い時間探し続けて…-。
コロレ「うーん……ないなぁ……」
手に持ったライトを揺らしながら、枝を傷つけないように優しく掻き分ける。
時には木々の間に顔を挟んで、一つも見落としがないように注意深く探していく。
(だんだん、手がかじかんで感覚がなくなってきちゃった……)
(でも、今はイエローラズベリーを……!)
夢中になるうちに、指先に感じる冷たさや吹きつける風の強さは気にならなくなってきた。
けれど…-。
コロレ「……やっぱり、ない……」
ベリー畑の全てを探し終えてしまい、僕は途方に暮れてしまう。
(そんな、都合よく生っているわけないか……)
(どうしよう……)
しゃがんだまま腕を組んで、顔を伏せる。
冷たい風が頬を打ち、たそがれながらぼんやりと遠くを眺めた、その時…-。
(あ……)
(まだ、探していない場所があった……!)
コロレ「あった……!!」
ベリー畑の端にある小さな道具置き場に、一つ苗を置いていたことを思い出した。
(ここ、陽当たりがすごくいいもんね)
コロレ「……うん、いい香り」
顔を近づけ、すんと嗅ぐと甘い香りが鼻をくすぐる。
(早く、彼女に見せたい)
イエローラズベリーを摘んで、足早にベリー畑を後にした。
(〇〇さん、喜んでくれるかな……)
イエローラズベリーを見つけて、弾む心地で帰り道を歩いていると…-。
〇〇「コロレさん……!」
(えっ……?)
想いをはせていた彼女が突然目の前に現れて、驚いてしまう。
(〇〇さん!?どうしてここに!?)
手の中にあるイエローラズベリーを慌てて背に隠した。
〇〇「よかったです……まだ戻られてないって聞いて、心配になってしまって……」
(っ……!)
〇〇さんはそう言うと、眉を下げてきゅっと唇を結んだ。
コロレ「それで僕を探して?」
〇〇「はい……そうです」
彼女の悲しげな表情を見ると、胸が苦しくなる。
(また、そんな顔させちゃった……)
コロレ「そ、そっか。ごめんね、心配かけて……」
〇〇「そうです、どれだけ心配したか……! それに、ずっと様子が変だし……私…-」
(……!)
必死な様子の彼女に、はっと気づかされる。
(僕は……馬鹿だ。こんなに心配をかけてしまって…-)
一つ大きく大きく深呼吸をして、彼女に向き直る。
コロレ「……〇〇さん。 ……本当にごめん」
〇〇「もう、帰れますか?」
コロレ「……うん、帰るところだよ。一緒に……帰ろうか」
僕に問いかける彼女の瞳は、不安がにじんでいるように見えた。
その表情を見て、僕は決心する。
(まずは、彼女を暖かい部屋まで送ろう)
(ちゃんと説明しなきゃ……もうこんな顔はさせちゃ駄目だ)
(そして、彼女に好きだって……しっかりと伝えたい)
星が瞬く寒空の下、〇〇さんと二人並んで歩く帰り道で……
僕は密かに誓いを立てた…-。
おわり。