彼女とベリー畑を散歩してから、その翌日…-。
僕は、〇〇さんと顔を合わせることができないでいた。
(今彼女に会ったら、絶対に顔が赤くなってしまう……)
ベリー畑からの帰り道、車が通りかかり危ないと彼女を抱き寄せた時のことを思い出す。
(抱きしめたら、すっぽりと僕の腕に隠れてしまうぐらい小さくて……)
(なんだか、いい香りもした)
ぼんやりと彼女のことを思い浮かべるだけで、頬が熱くなってくる。
鏡を見なくても、僕の顔が林檎みたいに真っ赤になっていることがわかった。
コロレ「こんな状態で、絶対会えるわけがない……」
ぽつりと本音が口からこぼれた。
〇〇さんが訪ねてくれた時、心苦しいと思いながらも僕は会えないと断ってしまった。
(さっき、申し訳ないことをしてしまったな……)
彼女と話す口実をと、前から進めていたレシピの続きを考えていたけれど……
実はあまり上手くいっていない。
コロレ「この味でいいのか……わからなくなってきちゃった」
(僕の中に迷いがあるのが、チョコレートにも出てしまっているのかもしれない)
試作したベリーチョコレートを一つ摘まんで、噛んでみる。
チョコレートのパリッとした食感の後、甘酸っぱいベリーの香りと甘さが広がって……
(おいしいんだけどな)
コロレ「何かが、足りない」
どこかにヒントがあるかもしれないと、今までに作ったレシピに手を伸ばした。
すると……
(あ……)
目に留まったのは、イエローラズベリーを使ったレシピだった。
―――――
コロレ『うーん、翌々月から実り始めて、畑が黄色に染まるよ』
〇〇「そうなんですね……残念です」
―――――
(〇〇さん……本当に残念そうな顔をしていたな)
(そうだ、イエローラズベリーの収穫時に、彼女をまた招待しよう)
(そうすれば、翌々月には……)
そこまで考えて、はたと気づく。
(あれ……?そうすると、もしかして……)
コロレ「翌々月まで、彼女に会えない……?」
(そんなの、絶対に嫌だ)
彼女に会えないと思ったとたんに、胸がぎゅっと痛む。
(さっきまで避けようとしてたのに……僕はなんて都合がいい人間なんだろう)
(……でも、彼女に会えないのは嫌だ)
コロレ「ちゃんと……伝えなきゃ」
(彼女と、きちんと向き合いたい)
決心してしまえば、どんどんやらなきゃいけないことが見えてくる。
(まずはこのレシピをきちんと完成させて、彼女に食べてもらおう)
僕はチョコレートの材料とベリーをいくつかピックアップして、ベリーチョコレート作りを再開した。
…
……
それから、しばらくして…-。
(もう、何度目の試作になるかな……)
チョコレートとベリーの配分を何パターンも変えたけれど、出来上がりに納得ができ、冷やす段階まで進んだものは3つしなかった。
(そろそろ冷えたころかな……)
完成した3つのチョコレートを冷蔵庫まで取りに行こうとした、その時…-。
コロレ「あ……〇〇……さん」
彼女が調理室の入口に立っていた。
昨日ことを思い出して、鼓動が早くなるのを感じる。
でも、〇〇さんはどこか様子が変で……
〇〇「ごめんなさい、私、お邪魔でしたよね……」
コロレ「ううん、そんなことないよ。邪魔なんかじゃない」
(〇〇さんの前だと……顔が熱いよ……)
恥ずかしさを感じて、自然と言葉も小さくなってしまう。
コロレ「邪魔とか、そんな……」
〇〇「お忙しいのに、本当にごめんなさい」
コロレ「そんな……!」
(あれ……?)
彼女の悲しそうな顔が目に入って、首を傾げる。
(もしかして……本当に勘違いしてる?)
(全然邪魔なんかじゃなくて、むしろ僕は……)
(貴方に会えて、こんなに嬉しいのに)
そこまで考えて、先程の自分の態度を思い出した。
(そっか、僕が避けてしまったから……)
(君を悲しませてしまうなんて)
自分が情けなくて、思わず眉が下がってしまう。
(きちんと、誤解を解かなきゃ)
コロレ「貴方を勘違いさせてしまうなんて、いけないことだよね」
(そうだ)
(まだ完成ではないけれど……)
コロレ「あのね……貴方に意見を聞いてもいいかな?」
〇〇「意見……新作のベリーとチョコレートのお菓子ですか?」
コロレ「うん。入っておいでよ」
彼女に食べてもらいたいと心から思った、あのチョコレート。
コロレ「貴方の持ってきてくれたお茶も、ちょうだい?」
そして、彼女が持ってきてくれた僕のお気に入りの紅茶。
(くすぶっていた気持ちが晴れていく気がする)
(きっと貴方となら、足りない何かも見つけられる気がするんだ)
(そして、ゆっくり誤解を解いて……素敵なティータイムにしよう)
僕の中にある、〇〇さんへの気持ちがとくとくと心臓を鳴らす。
その音に心地よさを感じながら、これから始まる素敵な時間を予感する。
僕は笑顔で彼女の手を引き、調理場へと招き入れた…-。
おわり。