翌日、私達は約束通り街へと出かけた。
新しいカカオをわけてもらおうと、いくつかの店を回る。
けれど…-。
店員「すみません。カカオは愛の日のためのギフト用で、お譲りする分がなく……」
砕牙「そうか……」
どの店も同じ理由で、カカオをきらしていた。
〇〇「残念ですね……」
砕牙「そう言えば、今日は愛の日と聞いたな……。 仕方がない。我が来る日を間違えたのだ。 わけてもらうのは日を改めた方がよさそうだな」
微笑む砕牙さんだけど、彼の耳は残念そうに垂れているように思えた。
その時…-。
店員「カカオはお渡しできませんが、そのカカオを使ったチョコを試しに食べてみませんか?」
砕牙「ほう……では、そうさせてもらうか」
店員「はい。ぜひ」
砕牙「〇〇、うぬが食べたいチョコレートはあるか?」
〇〇「私ですか?」
私と砕牙さんはガラスケースの中のチョコを眺める。
〇〇「このチョコはどうですか?」
私は、並べられた一つを指さす。
四角いチョコをラッピングするように、銀色の線が引かれた可愛らしいチョコ……
(砕牙さんの髪と同じ色……)
砕牙「うむ。ではそれにするか」
砕牙さんは店員に話しかけると、二つ手に受け取る。
その一つを私の手のひらの上に乗せた。
砕牙「どんな味がするのか、楽しみだな」
私達は受け取った試食用のチョコを口に入れる。
チョコが口の中で優しく溶け、甘い香りが広がっていった。
砕牙「昨日食べた物とはまた違った味がする……」
〇〇「おいしいですね……!」
砕牙「やはりカカオとは不思議な物だ」
砕牙さんはさっそく店員さんに再び声をかけると、持ち帰り用のチョコを注文した。
商品の準備ができるまでの間、彼はカカオについて熱心に話を聞いている。
(砕牙さん……)
彼の凛々しい横顔を見つめながら、私は愛の日について考えていた。
(愛の日か……)
贈り物用に包まれたチョコを眺める。
(本当は砕牙さんにチョコを渡せたらよかったけど、もう買ってるし……)
砕牙「随分熱心に見ているな」
〇〇「え……?」
買い物を終えたのか、砕牙さんが私の後ろから商品を眺める。
砕牙「やはり、女性はチョコレートを贈られると喜ぶのだろうか?」
〇〇「はい、喜ぶと思います」
砕牙「うぬもそうか?」
〇〇「はい、もちろんです……! あ……でも、贈る相手のことを一生懸命考えて選んだものなら、なんだって嬉しいんだと思います」
砕牙「贈る相手のことをか……」
〇〇「どうしてそんなことを?」
砕牙「いや……愛の日は感謝を伝える日でもあるのだと言う。 うぬには付き合わせてしまったからな、贈り物をせねばと思うてな」
〇〇「私に……?」
思いがけない言葉に、胸がトクンと音を立てる。
砕牙「うぬはおいしそうにチョコレートを食べる。ならばと思うたのだが……」
〇〇「それなら私も……! 砕牙さんと一緒に楽しい時間を過ごせて、私も何かお渡ししたいと思ってました。 でも、もうチョコは買っているので、どうしようかと思って……」
砕牙「そうであったか……うぬが気にすることではないと言うのに。 うぬはどこまでも優しいな」
(それは砕牙さんの方なのに……)
砕牙「贈り物、か……」
砕牙さんはしばらく、何かを思案していたけれど……
砕牙「ならば、互いにチョコレート以外の物を贈り合うのはどうだ? うぬからチョコレートをもらうのも嬉しいのだが……。 先ほどうぬが言うた、贈る相手の気持ちを考えた贈り物というのが、気になる。 どうだ?」
〇〇「ぜひ……!」
砕牙さんからの思いがけない提案に、私の胸が弾んでいった…-。