月7話 カカオを貰いに

翌日、私達は約束通り街へと出かけた。

新しいカカオをわけてもらおうと、いくつかの店を回る。

けれど…-。

店員「すみません。カカオは愛の日のためのギフト用で、お譲りする分がなく……」

砕牙「そうか……」

どの店も同じ理由で、カカオをきらしていた。

〇〇「残念ですね……」

砕牙「そう言えば、今日は愛の日と聞いたな……。 仕方がない。我が来る日を間違えたのだ。 わけてもらうのは日を改めた方がよさそうだな」

微笑む砕牙さんだけど、彼の耳は残念そうに垂れているように思えた。

その時…-。

店員「カカオはお渡しできませんが、そのカカオを使ったチョコを試しに食べてみませんか?」

砕牙「ほう……では、そうさせてもらうか」

店員「はい。ぜひ」

砕牙「〇〇、うぬが食べたいチョコレートはあるか?」

〇〇「私ですか?」

私と砕牙さんはガラスケースの中のチョコを眺める。

〇〇「このチョコはどうですか?」

私は、並べられた一つを指さす。

四角いチョコをラッピングするように、銀色の線が引かれた可愛らしいチョコ……

(砕牙さんの髪と同じ色……)

砕牙「うむ。ではそれにするか」

砕牙さんは店員に話しかけると、二つ手に受け取る。

その一つを私の手のひらの上に乗せた。

砕牙「どんな味がするのか、楽しみだな」

私達は受け取った試食用のチョコを口に入れる。

チョコが口の中で優しく溶け、甘い香りが広がっていった。

砕牙「昨日食べた物とはまた違った味がする……」

〇〇「おいしいですね……!」

砕牙「やはりカカオとは不思議な物だ」

砕牙さんはさっそく店員さんに再び声をかけると、持ち帰り用のチョコを注文した。

商品の準備ができるまでの間、彼はカカオについて熱心に話を聞いている。

(砕牙さん……)

彼の凛々しい横顔を見つめながら、私は愛の日について考えていた。

(愛の日か……)

贈り物用に包まれたチョコを眺める。

(本当は砕牙さんにチョコを渡せたらよかったけど、もう買ってるし……)

砕牙「随分熱心に見ているな」

〇〇「え……?」

買い物を終えたのか、砕牙さんが私の後ろから商品を眺める。

砕牙「やはり、女性はチョコレートを贈られると喜ぶのだろうか?」

〇〇「はい、喜ぶと思います」

砕牙「うぬもそうか?」

〇〇「はい、もちろんです……! あ……でも、贈る相手のことを一生懸命考えて選んだものなら、なんだって嬉しいんだと思います」

砕牙「贈る相手のことをか……」

〇〇「どうしてそんなことを?」

砕牙「いや……愛の日は感謝を伝える日でもあるのだと言う。 うぬには付き合わせてしまったからな、贈り物をせねばと思うてな」

〇〇「私に……?」

思いがけない言葉に、胸がトクンと音を立てる。

砕牙「うぬはおいしそうにチョコレートを食べる。ならばと思うたのだが……」

〇〇「それなら私も……! 砕牙さんと一緒に楽しい時間を過ごせて、私も何かお渡ししたいと思ってました。 でも、もうチョコは買っているので、どうしようかと思って……」

砕牙「そうであったか……うぬが気にすることではないと言うのに。 うぬはどこまでも優しいな」

(それは砕牙さんの方なのに……)

砕牙「贈り物、か……」

砕牙さんはしばらく、何かを思案していたけれど……

砕牙「ならば、互いにチョコレート以外の物を贈り合うのはどうだ? うぬからチョコレートをもらうのも嬉しいのだが……。 先ほどうぬが言うた、贈る相手の気持ちを考えた贈り物というのが、気になる。 どうだ?」

〇〇「ぜひ……!」

砕牙さんからの思いがけない提案に、私の胸が弾んでいった…-。

 

 

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