翌日、私達は約束通り街へと出かけた。
人で賑わう街並みを、私と砕牙さんは手を繋いで歩く。
(砕牙さんの手、温かいな……)
砕牙「うぬの手は温かいな」
○○「っ……!」
砕牙「どうかしたか?」
○○「私も同じことを思っていたので、驚いてしまって」
砕牙「そうであったか」
砕牙さんは微笑むと、私の手を強く握る。
(不思議……昨日よりも砕牙さんを近くに感じる)
○○「そう言えば、昨日もらったチョコは食べましたか?」
砕牙「ああ」
○○「どうでしたか?」
砕牙「今までに食べたことのない甘さで驚いた。 あれは大福とは違う甘さがある」
○○「砕牙さんは、大福が好きなんですか?」
砕牙「豆大福が特にな。 我には煌牙(こうが)という兄がいるのだが、大福が好きで、よく買ってきては我にもくれるのだ」
○○「兄弟でお好きなんですね」
砕牙「小さい頃は、つぶ餡がいいか、こし餡がいいかで喧嘩をしたこともある」
砕牙さんは懐かしむように、瞳を閉じる。
砕牙「そういえば昔、カカオの苦さに我も兄も泣いたことがあったな」
○○「砕牙さんがですか?」
砕牙「我も子どもだったゆえ、あの苦さに驚いてな」
○○「今の砕牙さんを知っているから、少し不思議な感じです」
(子どもの頃の、泣いている砕牙さん……)
その姿を想像すると、胸に愛おしさが芽生えてくる。
砕牙「チョコレートのようであれば、泣くこともなかっただろうに」
○○「そうですね」
砕牙「カカオをどのようにしたら飲みやすくなるのか。 薬となると、カカオ以外も混ぜて使うのでな。 苦さをごまかせたらよいのだが……」
砕牙さんは考え込むように、空を仰ぐ。
(砕牙さんはいつでも国やお薬のことを考えてるんだなあ……)
そう思いながら、彼の端正な横顔を眺める。
砕牙「……と、すまぬな」
○○「え……?」
砕牙「うぬといるのに、結局薬の話になってしまった。 これではうぬも退屈であろう?」
○○「い、いえ! 砕牙さんのお話が聞けて楽しいです」
砕牙「そうか?」
○○「はい。こんなに一生懸命、皆が飲みやすい薬を考えてくれたら、皆嬉しいだろうなと思って……」
些細なことでも、彼のことを一つ知るたびに、私の中で彼を思う気持ちが大きくなる。
(私、砕牙さんのことを……?)
自分の気持ちに気づき、私は頬が熱くなるのを感じた。
…
……
空に星が輝き始めた頃、私達はある店へとやってきた。
店の入り口にかけられた『王室御用達』の看板がライトに照らされている。
砕牙「ここのようだ」
○○「ここは……?」
砕牙「城の者が手配してくれたのだ。新しいカカオについて話を聞ける店はないかと。 この時間でなら話せると聞いてな。店の者には無理をさせてしまったが……」
(砕牙さん、なんだかうずうずしてる……?)
待ち遠しさを隠しきれない、と言った様子に笑みがこぼれる。
砕牙「行くか」
○○「はい……!」
砕牙さんが私の手を引く。
繋がれた手に、ほんの少しだけ想いを込めて握り返した…―。