太陽7話 近づく心

翌日、私達は約束通り街へと出かけた。

人で賑わう街並みを、私と砕牙さんは手を繋いで歩く。

(砕牙さんの手、温かいな……)

砕牙「うぬの手は温かいな」

○○「っ……!」

砕牙「どうかしたか?」

○○「私も同じことを思っていたので、驚いてしまって」

砕牙「そうであったか」

砕牙さんは微笑むと、私の手を強く握る。

(不思議……昨日よりも砕牙さんを近くに感じる)

○○「そう言えば、昨日もらったチョコは食べましたか?」

砕牙「ああ」

○○「どうでしたか?」

砕牙「今までに食べたことのない甘さで驚いた。 あれは大福とは違う甘さがある」

○○「砕牙さんは、大福が好きなんですか?」

砕牙「豆大福が特にな。 我には煌牙(こうが)という兄がいるのだが、大福が好きで、よく買ってきては我にもくれるのだ」

○○「兄弟でお好きなんですね」

砕牙「小さい頃は、つぶ餡がいいか、こし餡がいいかで喧嘩をしたこともある」

砕牙さんは懐かしむように、瞳を閉じる。

砕牙「そういえば昔、カカオの苦さに我も兄も泣いたことがあったな」

○○「砕牙さんがですか?」

砕牙「我も子どもだったゆえ、あの苦さに驚いてな」

○○「今の砕牙さんを知っているから、少し不思議な感じです」

(子どもの頃の、泣いている砕牙さん……)

その姿を想像すると、胸に愛おしさが芽生えてくる。

砕牙「チョコレートのようであれば、泣くこともなかっただろうに」

○○「そうですね」

砕牙「カカオをどのようにしたら飲みやすくなるのか。 薬となると、カカオ以外も混ぜて使うのでな。 苦さをごまかせたらよいのだが……」

砕牙さんは考え込むように、空を仰ぐ。

(砕牙さんはいつでも国やお薬のことを考えてるんだなあ……)

そう思いながら、彼の端正な横顔を眺める。

砕牙「……と、すまぬな」

○○「え……?」

砕牙「うぬといるのに、結局薬の話になってしまった。 これではうぬも退屈であろう?」

○○「い、いえ! 砕牙さんのお話が聞けて楽しいです」

砕牙「そうか?」

○○「はい。こんなに一生懸命、皆が飲みやすい薬を考えてくれたら、皆嬉しいだろうなと思って……」

些細なことでも、彼のことを一つ知るたびに、私の中で彼を思う気持ちが大きくなる。

(私、砕牙さんのことを……?)

自分の気持ちに気づき、私は頬が熱くなるのを感じた。

……

空に星が輝き始めた頃、私達はある店へとやってきた。

店の入り口にかけられた『王室御用達』の看板がライトに照らされている。

砕牙「ここのようだ」

○○「ここは……?」

砕牙「城の者が手配してくれたのだ。新しいカカオについて話を聞ける店はないかと。 この時間でなら話せると聞いてな。店の者には無理をさせてしまったが……」

(砕牙さん、なんだかうずうずしてる……?)

待ち遠しさを隠しきれない、と言った様子に笑みがこぼれる。

砕牙「行くか」

○○「はい……!」

砕牙さんが私の手を引く。

繋がれた手に、ほんの少しだけ想いを込めて握り返した…―。

 

 

 

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