砕牙「ならば○○、共にチョコレートを食べてみるか?」
○○「え……?」
砕牙さんの言葉に、一瞬時が止まったように感じた。
(チョコを一緒に食べるって……)
(でも今、愛の日のことを聞いたばかりで……)
(それで一緒に食べようって、それって……)
私は砕牙さんの言葉の意味を頭の中でぐるぐると考え続ける。
砕牙「チョコレートは幸せな気持ちを共有するものだろう? ならばと思い聞いたのだが……」
○○「あ……」
(じゃあ、想いを寄せるとか…そういう意味じゃなくってことだよね……?)
砕牙「ああ……そうか」
戸惑う私の様子を見て、砕牙さんは何かに気づいたかのように微笑む。
砕牙「うぬを困らせてしまったようだな……すまぬ」
○○「! 違いま…―」
慌てて否定しようとした時…―。
店員「トリュフチョコレートです。お試しに一粒どうぞ」
私達の前に、チョコレートの包みが差し出された。
砕牙「よいのか?」
店員「はい! ぜひ食べてみてください」
砕牙「では、ありがたく受け取ろう」
砕牙さんはチョコを受け取ると、大事そうに荷物にしまう。
○○「今食べないんですか?」
砕牙「ああ……後でゆっくりといただこうと思うてな」
(チョコを食べるの、楽しみにしているのかな……)
(それなのに……さっき私……)
砕牙「さて、そろそろ城へ向かうか」
○○「あ……」
(そうだ……お城に招待されているんだから、行かないと)
○○「はい……」
砕牙「名残惜しいな……。 うぬと共にいると、時間が短く感じる。 皆がうぬを待っているやも知れぬ」
○○「はい……」
私達は店を出て、城へと歩き始める。
砕牙さんと並んで歩く中、私の胸に押し寄せるのは、ほんの少しの後悔だった。
…
……
城に着き、砕牙さんがカカオを受け取る。
そのやり取りを見つめながら、私は先ほど聞きそびれたことを考えていた。
ー----
砕牙「ああ……そうか。 うぬを困らせてしまったようだな……すまぬ」
ー----
(あれはどういう意味だったんだろう……?)
砕牙「よいカカオをわけてもらった」
砕牙さんはカカオを確認して、満足そうに頷くと……
城の家臣「こちらも、我が国のカカオがお役に立ててなによりです。 実は今、我が国では新しいカカオを使ったチョコレートがあるんですよ」
砕牙「新しいカカオ?」
城の家臣「今は王家から許可を得たショコラティエのみが使用を許されているのですが」
砕牙「ほう、それは興味深い。薬用に使えるのか知りたいところだ」
砕牙さんはチョコレートよりも、そのカカオに興味を示しているようだった。
(そうだ。砕牙さんは、カカオを受け取りに来たんだよね……)
(じゃあ、もうこれでお別れなのかな)
チョコレートの店に一緒に入った時間が名残惜しく思える。
砕牙「ちょうどチョコレートにも興味が出てきたところでな。 そのカカオを使ったチョコも食べてみるとしよう」
(チョコを……食べる……?)
○○「あの、砕牙さん……!」
私は自分が何を言いたいのかわからないまま、彼を呼び止めていた。
砕牙「○○、どうした?」
○○「あの……」
(私は、まだ砕牙さんと一緒にいたい)
(できれば一緒にチョコを……)
○○「この後まだお時間はありますか?」
私の心を見透かすかのように、砕牙さんはその美しい瞳を優しく細めた…―。