チョコレートを食べることになった私達は、甘い香りが漂う大通りを歩いていた。
ハートや風船等、さまざまな装飾に彩られた店を、胸を弾ませながら見渡していると…―。
砕牙「ん? なんだあれは」
ふと、彼がある店の看板に目を止めた。
そこには『チョコは恋の特効薬』と可愛らしい文字で書かれていた。
(恋の特効薬って、もしかして……)
砕牙「恋の特効薬とは珍妙な……面白そうだ、あの店に入るか」
○○「あ、でも本当に特効薬というわけでは…―!」
砕牙「まあ、慌てるでない。わかっておる。だが、そう書くには何か理由があるのだろう。 ならば、いかなるものか、見定めてみようではないか」
そう言うと、砕牙さんは尻尾を大きく揺らした。
(砕牙さん、なんだか楽しそう)
生き生きとした彼の表情に、私も楽しくなってくる。
砕牙さんに手を引かれ、私達は店へと入った…―。
…
……
砕牙「どうやらいろいろと種類があるのだな」
砕牙さんは腕を組み、ガラスケースの中のチョコレートを見つめる。
○○「どれもおいしそうですね」
種類によって少しずつ形が違うチョコレートが、ケースの中で艶やかに輝く。
ガラスケースの中以外にも、テーブルや棚にチョコレートのお菓子が並べられていた。
店員「何か気になる商品はございますか?」
砕牙「ふむ……。 どれも気になるのだが……それよりもあの『特効薬』というものが気になるのだが。 あれはどのような意味があるのだ?」
店員「あれは『愛の日』に向けてのキャッチフレーズなんです」
店員さんの言葉に、私達は思わず顔を見合わせる。
砕牙「愛の日? 耳に馴染まぬ言葉だが」
○○「何でしょうか?」
私達の様子を見て、店員さんは和やかに説明をしてくれた。
店員「ああ、お二人はご存じないのですね? 愛の日とは、自分の愛する人や想いを寄せる人へ贈り物をする日のことですよ」
砕牙「なんと……そのような日があるのか」
店員「その時の贈り物にチョコレートをと、国を挙げて盛り上げているんです」
(なんだか、バレンタインに似てる……)
店員「明日がちょうど愛の日ですので、それで大々的に宣伝をしているんです。 甘くて濃厚なチョコが二人の愛をさらに盛り上げること間違いなしですよ!」
砕牙「なるほど。チョコレートの効能は幸せな気持ちを共に共有し、温かな雰囲気を醸し出すのだな」
店員さんの言葉に、砕牙さんは興味深そうに頷く。
○○「そうかもしれませんね」
砕牙「そうかも、とは何だ? 違うのか?」
○○「あ、いえ…―」
砕牙「ふむ……カカオは、思った以上にさまざまな効能があるのだな。 ならば○○、共にチョコレートを食べてみるか?」
○○「え……?」
砕牙さんが私へと視線を向ける。
妖艶な緑色の瞳が、私の瞳を捕らえた…―。