甘い香りが満ち満ちるショコルーナで、砕牙さんと再会したけれど……
砕牙「ふむ……」
彼は何か思案するように、目を細める。
(砕牙さん、賑やかなのは苦手なのかな?)
砕牙「そのような顔をしなくともよい。人の多さに少々驚いたが、困っているわけではない」
○○「そうですか……」
(それなら、よかった……)
砕牙「うぬとも会えたしな」
○○「え……?」
砕牙「久しぶりにうぬの顔が見れて、嬉しいぞ」
○○「砕牙さん……」
思いがけない言葉を聞いて、頬が熱くなっていく。
砕牙「うぬは違うのか?」
○○「嬉しいです。砕牙さんとはなかなかお会いできないので」
砕牙「ほう、寂しく思うてくれていたか?」
○○「寂しいなんて……そんな……」
(そんな風に思っていいのかな)
砕牙「わかっておる。そう赤くなるな。 さて、来てしまったものは仕方ない。 うぬも城へと向かうのだろう?」
○○「はい」
私の返事を聞いて、砕牙さんは満足げに一つ頷いてみせた。
砕牙「この人込みだ。共に参らぬか?」
○○「はい、ぜひ……!」
砕牙「そうか。ではゆるりと参ろうぞ」
優しく瞳を細める砕牙さんの長い尻尾が、ふわりと揺れた。
○○「そういえば……砕牙さん、お洋服なんですね」
砕牙「ああ。いつもの装いだと目立ちすぎるのでな……」
○○「とても新鮮です」
(雰囲気が違って……少しドキドキする)
その時…―。
砕牙「ん?」
砕牙さんは驚いたように目を瞬かせると、ゆっくり後ろを振り返る。
○○「どうしたんですか?」
砕牙「いやなに、この者がな……」
○○「この者?」
砕牙さんの視線の先へと目を向けると…―。
小さな男の子が、砕牙さんの尻尾を両手で抱きしめていた。
男の子「……」
砕牙「こら、そう抱きつくでない」
砕牙さんは優しく尻尾を振り上げる。
けれど男の子は楽しそうに尻尾を手で追いかけ、再び掴んだ。
砕牙「これはどうしたことか……」
○○「迷子でしょうか?」
砕牙「おぬし、親はどうした?」
男の子「……」
男の子は何も答えず、砕牙さんの尻尾を触っている。
砕牙「よさぬか……」
○○「砕牙さんの尻尾、たしかに触りたくなりますね」
(ふわふわして気持ちよさそう……)
私も思わず、砕牙さんの尻尾に手を伸ばしてしまう。
艶やかな白銀の尻尾は柔らかくてふかふかしていた。
砕牙「こら……うぬ等、そろいもそろって……。 くすぐったいではないか」
砕牙さんは私達の手から逃れるように、尻尾を横に振り上げる。
○○「あ……ごめんなさ…―」
私は慌てて手を引っ込めるけれど……
男の子「ふかふか! ふかふか!」
男の子は、また手から離れた尻尾を手で追いかける。
そんな健気な姿に根負けしたのか、彼は尻尾を男の子の方へなびかせた。
砕牙「まったく……」
(砕牙さん、優しいな……)
彼の優しさを含んだ声が、私の胸を温かくした…―。