チョコレートの国・ショコルーナ 白の月…―。
私は新作チョコレートの発表会に招待され、賑わうショコルーナを訪れていた。
○○「チョコの香りがする……」
街全体を包む甘い香りが、私を出迎えてくれる…―。
(チョコレートの国の新作チョコって、どんなものなんだろう……)
(食べたことがないようなおいしさなのかな)
期待に胸が高鳴っていくのを感じる。
パーティ会場である城を目指し、多くの人で賑わう大通りを歩いていると…―。
??「これは難儀な時期に来てしまったようだ」
(今の声……)
後ろから、聞き覚えのある低くゆったりとした声が聞こえ、振り向くと……
砕牙「祭りが行われているとは知らなんだ……」
砕牙さんが困ったように、立ち尽くしていた。
○○「砕牙さん?」
名前を呼ばれたことに気づいたのか、砕牙さんは耳をピクリと動かす。
砕牙「○○……か」
口元に笑みを浮かべ、彼は深い緑色の瞳を細めた。
砕牙「ここで会うとは思わなんだ」
○○「私もです」
砕牙さんは、天狐の国・伊呂具の王子様……
他者を寄せつけない国だけど、目覚めされたお礼にと、私は以前彼の国から招待を受けたことがあった。
伊呂具の神秘的な雰囲気と、もう千年も生きる砕牙さんの話に、惹きつけられたことを思い出す。
(でも、どうしてここにいるんだろう)
○○「砕牙さんも新作チョコレートの発表会に来たのですか?」
砕牙「チョコレート?」
初めて聞いたかのように、砕牙さんはまばたきをする。
(違ったのかな?)
砕牙「ああ……チョコレートとは、カカオから作る甘味菓子のことか」
○○「そうです」
砕牙「我は、薬用にカカオをわけてもらうつもりで、ショコルーナに来たのだが……」
(薬用……?)
砕牙「……少々時期を誤ったようだ」
大通りを見つめ、砕牙さんは息を深く吐き出す。
彼の耳がほんの少し垂れ下がったように見えた。
(困ってる砕牙さん……ちょっと可愛いかも)
自然と笑みがこぼれ、私は口元を手で隠した。
チョコレートのような甘さが、私の胸にも広がっていくように感じた…―。