第1話 甘い香りの出会い

チョコレートの国・ショコルーナ 白の月…―。

私は新作チョコレートの発表会に招待され、賑わうショコルーナを訪れていた。

○○「チョコの香りがする……」

街全体を包む甘い香りが、私を出迎えてくれる…―。

(チョコレートの国の新作チョコって、どんなものなんだろう……)

(食べたことがないようなおいしさなのかな)

期待に胸が高鳴っていくのを感じる。

パーティ会場である城を目指し、多くの人で賑わう大通りを歩いていると…―。

??「これは難儀な時期に来てしまったようだ」

(今の声……)

後ろから、聞き覚えのある低くゆったりとした声が聞こえ、振り向くと……

砕牙「祭りが行われているとは知らなんだ……」

砕牙さんが困ったように、立ち尽くしていた。

○○「砕牙さん?」

名前を呼ばれたことに気づいたのか、砕牙さんは耳をピクリと動かす。

砕牙「○○……か」

口元に笑みを浮かべ、彼は深い緑色の瞳を細めた。

砕牙「ここで会うとは思わなんだ」

○○「私もです」

砕牙さんは、天狐の国・伊呂具の王子様……

他者を寄せつけない国だけど、目覚めされたお礼にと、私は以前彼の国から招待を受けたことがあった。

伊呂具の神秘的な雰囲気と、もう千年も生きる砕牙さんの話に、惹きつけられたことを思い出す。

(でも、どうしてここにいるんだろう)

○○「砕牙さんも新作チョコレートの発表会に来たのですか?」

砕牙「チョコレート?」

初めて聞いたかのように、砕牙さんはまばたきをする。

(違ったのかな?)

砕牙「ああ……チョコレートとは、カカオから作る甘味菓子のことか」

○○「そうです」

砕牙「我は、薬用にカカオをわけてもらうつもりで、ショコルーナに来たのだが……」

(薬用……?)

砕牙「……少々時期を誤ったようだ」

大通りを見つめ、砕牙さんは息を深く吐き出す。

彼の耳がほんの少し垂れ下がったように見えた。

(困ってる砕牙さん……ちょっと可愛いかも)

自然と笑みがこぼれ、私は口元を手で隠した。

チョコレートのような甘さが、私の胸にも広がっていくように感じた…―。

 

 

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