今日も、ピリピリとした空気が城内に満ちている…―。
起きてしまった仕事の問題への対処は、予想以上に時間がかかっているようだった。
フォルカー「……」
フォルカーさんは、通常業務もこなしつつその対処に追われているらしく、職場にこもりがちで、自室へ戻ってくることが少なくなっている…―。
(このままで、本当に大丈夫なのかな?)
(フォルカーさんの体も心配だし、それに……)
あることを思い出し、私は慌ててフォルカーさんの部屋へ向かった。
(勝手にごめんなさい……!)
そう思いながら、フォルカーさんの部屋の扉を開ける。
すると、ルビが頭を重そうにもたげて私を見た。
(元気が……ない?)
(やっぱり、忙しくてルビのお世話がなかなかできてなかったのかも)
急いで駆け寄り抱き上げると、腕の中でくったりと身体の力を抜いてしまう。
(大変……!)
弱り切ってしまったルビに、心が凍りついていく。
〇〇「すいません、誰か…―!!」
私は、扉の外へ向かって叫んだ…―。
…
……
ルビを獣医さんに預けた後、私はフォルカーさんの元へと向かった。
開け放たれた扉から中を覗くと、皆忙しく仕事をしているようだった。
充満する雰囲気はどこか重く、澱んでいるように感じられる。
〇〇「すみません、フォルカーさん……」
控えめに呼びかけると、フォルカーさんはちらりと私を見てくれたけれど、すぐに視線を書類へと戻してしまった。
フォルカー「どうした」
〇〇「それが……」
なるべく仕事の邪魔をしないようにと意識しながら、フォルカーさんの傍で話しかける。
〇〇「ルビくんの調子が悪いみたいなんです。だから今、獣医さんに預けていて……」
そう告げると、フォルカーさんの眉がぴくりと動いた。
フォルカー「……」
けれど……すぐにまた、仕事をする険しい表情になり書類をめくる。
フォルカー「獣医に診せたのなら、俺が戻ったところでどうしようもない」
〇〇「そんな……!」
フォルカー「今は大事な時だ。見ての通り忙しくもある。 この状態で仕事を抜けることは不可能だ」
(フォルカーさん……辛そうな表情なのに)
フォルカー「後で……様子を見に戻る」
絞り出したような声を出した後、それ以上は話すことがないと言わんばかりに、フォルカーさんは新しい書類を手に取った。
〇〇「……私、ルビくんについてますね」
フォルカー「……悪いな」
暗い気持ちを抱えたまま、フォルカーさんに背を向け、部屋を立ち去ろうとすると……
事務官「すみません、皆ピリピリしていて……」
部下の一人が申し訳なさそうに話しかけてくれる。
〇〇「いいえ。お仕事中にお邪魔しました……」
事務官「もうすぐ落ち着くので、フォルカー王子もその後戻られると思います。 ますます確認体制が厳しくなって、皆も参ってて。何の配慮もできなくてすみません」
〇〇「いいえ、そんな……お仕事、頑張ってください」
事情を教えてもらい、その場を後にしながらも、心が重く苦しくて仕方がなかった…―。