問題となった仕事を終えた翌日…-。
事務官1「フォルカー王子!」
事務官2「王子、そのウサギって……」
事務官1「あっ、もしかしてフォルカー王子のウサギですか!?」
通りがかった事務官達が、ルビを見て話しかけてきた。
フォルカー「……」
(見られてしまった……!)
(一体彼らはどう思うだろうか……俺が、ウサギなど)
反応が怖く、思わず俺は顔を手で覆ったが…-。
事務官2「へぇ、可愛いウサギですね。 しかし、あのフォルカー王子がウサギって……何だか親近感が湧いちゃいました」
フォルカー「え……?」
予想だにしなかった明るい反応に、俺は一瞬固まってしまった。
(親近感……)
その言葉を、俺は頭の中でもう一度つぶやいてみる。
(俺に……?)
そんな俺には構わず、ルビについて談笑を続ける事務官達の姿を、ただぼうっと見つめていた。
(しかし、親近感とは……)
(俺がウサギを連れていれば、近寄りやすく話しやすいということか……)
(つまり円滑なコミュニケーションが取れるようになる)
思い悩んでいたことが、意外なほど簡単に解決しそうで、俺は戸惑ってしまう。
(これが……正解だったのか?)
(いや、正解も不正解もないだろう。どちらが、より良いか、だ)
〇〇「ルビくん、じゃあお散歩の続きしましょうか」
事務官達と別れると、彼女は優しくルビを撫でてそう言った。
柔らかな声色に反応するかのように、ルビが飛び跳ねる。
(彼女は、俺にも心を開き、誰彼となく優しく接している)
(俺も多少は……そうなってくべきなのではないだろうか)
彼女の姿を見ていると、その考えに強さが増す。
仕事の忙しさと問題に追いやられて、冷たく当たってしまったというのに……
(それでもお前は……いつでも優しかったな)
フォルカー「……難しく考えて、自分から壁を作ってしまっていたのかもしれないな」
ルビを見る彼女の柔和な眼差しに、ふと言葉がこぼれる。
〇〇「フォルカーさん……」
こちらを見上げた彼女の瞳は、やはり純粋で曇りのないものだった。
(……なんて純粋な瞳なんだ)
〇〇を見ていると、心が羽根のように軽くなる。
フォルカー「〇〇の言う通り、気負う必要もなかったんだろう。 完璧な人間など必要ない。自分を装うことも隠すことも……必要のないことだ」
ひとつひとつ言葉にするたび、くすぶっていたものが吹っ切れていく。
〇〇「はい! その通りだと思います。 私は、フォルカーさんのどんな面も、素敵なフォルカーさんの一部だと思っています」
フォルカー「っ……ありがとう」
彼女の笑顔がまぶしく、あたたかな太陽の日差しに煌めいた。
(お前は本当に……)
フォルカー「〇〇は、俺の良き理解者だ」
彼女のそのまばゆい笑みを逃したくなく、堪らずきつく彼女の手を握り締めた。
〇〇「っ……」
〇〇は、俺と手が重なるとほのかに頬を染める。
恥じらうようにうつむきかけ、おずおずと上目を向ける姿に、いじらしさを覚える。
フォルカー「職場の人間とは、これから何とか上手くやっていくことができそうだ。 今度は……プライベートをもっと充実させたい。ルビだけではなく……。 お前と一緒に時間を過ごしていきたい。付き合って、くれるか?」
(心臓が……飛び出しそうだ……)
(仕事では偉そうにしているのに、情けないことだ)
こんな自分を、〇〇はどう思っているのか……
彼女の答えが待ち遠しく、そして怖かった。
〇〇「はい、もちろんです」
しかしその答えは、驚くほどすぐに返ってきた。
(何……!)
思わず彼女の手を握る手に、きつく力を込めていた。
フォルカー「今度は仕事の仲間達も一緒に、中庭で散歩をしてみようと思う。 これで、仕事一辺倒人間も少しはマシになるかもしれないな」
持て余す興奮を誤魔化すように、俺はそう〇〇に告げた。
すると、彼女は嬉しそうに笑ってくれて…-。
〇〇「ルビくん、じゃあこれからは、中庭でたくさんお散歩が出来るね」
ルビが彼女の言葉に鼻をひくつかせる。
フォルカー「そうだな。またこうして……」
目が合うと、彼女は恥ずかしそうに瞳を伏せる。
その全ての仕草が、俺の鼓動を跳ね上げるように感じられた。
(何故、こんなにも彼女のことが愛しくて堪らないのか……)
フォルカー「あ、やはりルビの散歩は、なるべくはお前と二人で…-」
〇〇「え?」
しゃがみ込んでルビを撫でていた彼女が、無垢な顔で俺を見上げる。
フォルカー「……いや、何でもない」
(……部下達との円滑なコミュニケーションというのはどうにかなりそうだが)
(アプローチ……というものは、どうすればいいのだろうか)
新たに発生した問題に、俺はひとり頭を抱えたのだった…-。
おわり。