それから数日後…―。
フォルカーさんと約束通り、中庭でルビの散歩をしていた。
色とりどりの花々が美しく咲き誇る中、時折風が甘やかな香りを運んでくる。
フォルカー「いつも少し足を伸ばした場所で、散歩してやってるんだ」
〇〇「そうなんですか? こんなに素敵な中庭があるのに……」
フォルカー「……城では、仕事の人間の目があるから、あまり良くないだろう?」
〇〇「どうしてですか?」
フォルカー「それはやはり…-」
事務官1「フォルカー王子!」
フォルカーさんが何かを言いかけた時、ちょうど声をかけられる。
事務官2「王子、そのウサギって……」
事務官1「あっ、もしかしてフォルカー王子のウサギですか!?」
話しかけてくれた二人も目を丸くしながら、ルビを見つめている。
フォルカー「……」
フォルカーさんは、困り果てた様子で顔を手で覆った。
〇〇「あの、一緒に散歩をさせてるんです」
事務官2「へぇ、可愛いウサギですね。 しかし、あのフォルカー王子がウサギって……何だか親近感が湧いちゃいました」
フォルカー「え……?」
驚いたフォルカーさんには気付かずに、二人の部下の方達は楽しそうに話を続ける。
事務官1「ほら、やっぱあれ本当だったんだよ」
事務官2「あ! 前にウサギを抱いて廊下を歩いてたって言う……」
事務官1「幽霊か幻……王子の生き霊だって噂があったけど……」
事務官2「本当だったんだな!」
(そ、そんな噂があったんだ……)
フォルカーさんを見れば、二人の会話に呆気に取られているようだった。
…
……
二人と別れた後も、私達はしばらくルビと広い中庭を巡っていた。
すると…-。
フォルカー「……難しく考えて、自分から壁を作ってしまっていたのかもしれないな」
不意にフォルカーさんが、クスリと苦笑いをこぼした。
〇〇「フォルカーさん……」
フォルカー「〇〇の言う通り、気負う必要もなかったんだろう。 完璧な人間など必要ない。自分を装うことも隠すことも……必要ないことだ」
フォルカーさんの吹っ切れた笑みが、太陽に煌めいてまばゆく輝く。
〇〇「はい! その通りだと思います。 私は、フォルカーさんのどんな面も、素敵なフォルカーさんの一部だと思っています」
フォルカー「っ……ありがとう」
わずかに頬を染めて微笑んでくれるフォルカーさんの横顔に、満たされた、あたたかな気持ちが湧き上がってくる。
フォルカー「〇〇は、俺の良き理解者だ」
そう言ってくれた瞬間…―。
〇〇「っ……」
ふわりと手を包み込まれたかと思えば、きつくしっかりと握られた。
どきりとして、改めてフォルカーさんの顔を見上げると、真剣な眼差しが向けられていた。
その視線は、太陽の煌めきに負けないくらい、とびきりの輝きを瞳にまとっていて……
フォルカー「職場の人間とは、これから何とか上手くやっていくことができそうだ。 今度は……プライベートをもっと充実させたい。ルビだけではなく……」
フォルカーさんの染まった頬が、また一段、桃色を濃くする。
フォルカー「お前と一緒に時間を過ごしていきたい。付き合って、くれるか?」
緊張しているのか、フォルカーさんの口調は硬い。
けれどその硬さが、ほんの少しだけぎこちない口調が……微笑ましく愛おしく感じられる。
〇〇「はい、もちろんです」
(私も……まだまだこれからも、フォルカーさんのことを知っていきたい)
そう強く思えて、繋いだ手に力を込める。
フォルカー「今度は仕事の仲間達も一緒に、中庭で散歩をしてみようと思う。 これで、仕事一辺倒人間も少しはマシになるかもしれないな」
そんな軽口じみたことが言えるようになったフォルカーさんに、ますます惹きつけられてならなかった…-。
おわり。