…
〇〇が記録の国レコルドを訪れてからしばらくのこと、その問題は起きた。
フォルカー「これは一体どういうことだ! 記録の情報が書き換えられている? 改ざん? いつ、どこで……」
フォルカーは、部下から手渡された書類に目を通しながら、頭の中で膨大な情報と、あらゆる可能性を並べ整理していく。
エリック「……どうしますか。大変な事態かと思いますが」
エリックの口元がわずかに緩んだのを見て、フォルカーは表情を歪める。
フォルカー「……」
その時、緊迫した雰囲気の中で扉を叩く音が聞こえた。
〇〇「……フォルカーさん、私です」
フォルカー「っ……!」
〇〇「あの、入っても大丈夫でしょうか?」
フォルカーは自分を落ちつかせるように目を閉じ、眼鏡をかけ直した…-。
…
フォルカーさんの仕事を見学させてもらうことになっていた私は、彼の元を訪れた。
〇〇「あの、入っても大丈夫でしょうか?」
フォルカー「……ああ、構わない」
一拍の間があり、部屋の中からフォルカーさんの声が聞こえた。
〇〇「失礼します……」
けれど、入室した途端その場に張り詰めた緊迫感に驚いた。
〇〇「あの、お邪魔でしたら……」
エリック「いえ、特に構わないのではないでしょうか。そうですよね? フォルカー王子」
(この人は……確か、エリックさん)
エリックさんは、私とフォルカーさんを交互に見やり、にやりと笑みを浮かべた。
フォルカー「……ああ」
(なんだか……おかしな雰囲気)
嫌な予感と居心地の悪さを感じつつも、立ち去るに立ち去れずにいると……
フォルカーさんが、ひとつ咳払いをして話し始めた。
フォルカー「とりあえず話を戻す。しかし、だ……。 いつもの報告は抜けていた。何故何も言わなかった」
エリック「いえ、私は報告しましたよ。書面にしていつも通り提出しています」
フォルカー「……」
フォルカーさんは、その返答に苦々しそうな顔を一瞬だけ見せる。
エリック「見られていないのなら、見落とされたのでしょう。 人間、完璧は難しいですからね。以後、気をつけられては?」
嫌味のように聞こえる物言いに、私もわずかに顔を曇らせてしまう。
フォルカー「……」
フォルカーさんは、難しい顔で何かを考えているようだった。
若い事務官1「し、しかしフォルカー王子が見逃すなんて考えられません!」
若い事務官2「そうです。普段からフォルカー王子を目の敵にしていましたし、あなたが仕組んだんじゃないですか」
エリック「言いがかりはよして欲しい。何か証拠でもあるのか?」
若い事務官2「でも……!」
フォルカー「やめろ」
フォルカーさんの通る声が、一触即発の状況を制した。
フォルカー「皆、静かにしろ。この問題については俺が対処、処理する。 情報の管理、書類のチェック体制についても今一度見直しをかける。 併せて考えておく。以上だ。今日は解散」
若い事務官2「あ……そんな!」
エリック「くくっ……」
エリックさんの不敵な笑い声が、私の耳に滑り込んできた…-。
…
……
皆を下がらせたフォルカーさんは、自室に戻ると思いため息をつきながら深く椅子に腰掛けた。
(フォルカーさん……)
かける言葉がわからなかったけど、彼の辛そうな様子に意を決して口を開く。
〇〇「フォルカーさん……大丈夫ですか?」
フォルカー「……!」
深く考えを巡らせていたのか、我に返ったようにフォルカーさんが顔を上げる。
フォルカー「……ああ、ついでに灯りをつけてくれるか? 悪い。いつの間にか、暗くなってきたようだな」
気付けば、部屋は夜の薄暗い影に支配されようとしていた。
〇〇「そうですね。わかりました」
頷いて、言われた通り灯りをつける。
淡い灯りが、フォルカーさんの蒼い髪を切なげに照らし出す。
いまだ沈み込んだ顔をしている彼の表情を見ると、心がひどく軋んだ。
(何か力になりたい……)
私は…―。
〇〇「あの、夕食はまだですよね。良ければ……ご一緒できませんか?」
気分を少し変えることが出来ればと、私はおずおずと問いかけた。
すると、フォルカーさんはわずかに微笑んでくれて……
フォルカー「……ああ、喜んでそうしよう」
陰りのあるフォルカーさんの顔が、強く胸を締めつける。
悲哀の表情が落とす影は、その聡明な顔をより際立たせていた…-。