フォルカーさんと別れ、部屋で一息吐いた後…-。
私は心地良い陽射しに誘われ、城の中庭へ足を伸ばしていた。
庭に降り注ぐ柔らかな陽が、花々を綺麗に彩っている。
(綺麗……)
さっきまで少し強張っていた体の力が抜けていくことを感じていると……
??「あれ、フォルカー王子はいらっしゃらないのですか?」
近づいてきた若い男性達に声をかけられた。
事務官1「私達はフォルカー王子の事務官を務めています。今日は姫様を案内すると仰っていたので」
〇〇「急なお仕事が入ったそうで、少し待っていてくれと言われました」
事務官1「そうなんですね……あ。フォルカー王子、怖くありませんでしたか?」
〇〇「え……?」
突然の質問に瞳を瞬かせる私を見て、男性達は小さく笑みを浮かべた。
事務官1「顔が怖いって逃げたりしないでくださいね?」
事務官2「そうそう、いつも怖い顔してるし、仕事中は鬼って感じだけど……実は優しかったりしますし」
苦笑を浮かべる二人に、私は…-。
〇〇「怖くなかったから大丈夫です」
事務官1「そうですか。それなら良かった!」
二人は朗らかに笑ってくれた。
事務官1「人間関係に限ると不器用と言えるかもしれないですね」
事務官2「仕事人間でいらっしゃるし、プライベートは謎めいているもんなあ……。 あの若さであっという間に最高官になったものだから、年長者の妬みを買うこともあるし」
(妬み……?)
―――――
フォルカー『責任感も無く、仕事に臨むんじゃない』
エリック『っ……わかりました。失礼します』
―――――
悔しげな様子で立ち去っていったエリックさんの姿が頭に浮かぶ。
(もしかして……エリックさんも?)
けれどそのことを聞くことはできずに、仕事に戻る二人の背中を見送った。
(冷淡なわけじゃなくて……仕事に真剣に取り組んでいるから怖く見えたのかな)
ぼんやりとフォルカーさんについて考えていると、当の本人が前から歩いてくるのが見えた。
フォルカー「庭にいると聞いてね。退屈にさせてしまってすまない」
颯爽と歩いてくる姿は、いつ見ても背筋が伸びたきっちりとしたものだ。
〇〇「いいえ、大丈夫です。素敵なお庭ですね」
フォルカー「……そうか。そうだな」
フォルカーさんは、まるでたった今気がついたとでも言うように庭を見渡す。
フォルカー「今度、ここを散歩させるのも…―」
〇〇「え……?」
独り言をつぶやくフォルカーさんの言葉を聞き取りたかったけれど、小さすぎるその声は、風にさらわれるようにすぐに消えてなくなってしまった。
フォルカー「〇〇姫は、草木が好きなのか?」
こちらへ向けられた瞳は、先ほど部下へ声を荒げたフォルカーさんとは随分違って見えた。
どこか優しげな、温かな色を含んでいる。
(仕事ではすごく怖くて、でも本当は優しい人で……)
フォルカー「姫?」
〇〇「あ、すみません。植物は好きです。なんだか癒されますし、いい香りがして……」
フォルカー「なるほど。 では、動物はどうだ?」
〇〇「動物……ですか? 好きだと思いますけど……」
(どういうことだろう?)
〇〇「フォルカーさんは、動物がお好きなんですか?」
フォルカー「っ……」
〇〇「フォルカーさん……?」
問いかけると困ったように視線を逸らされて、またしても疑問符が浮かび上がる。
フォルカー「い、いや……俺も好きだ」
どことなくぎこちない雰囲気を不思議に感じるものの、更なる問いかけは、フォルカーさんの言葉で遮られた。
フォルカー「それよりも、次は街を案内しよう。 城にいれば、仕事に関わることが多くなる」
大股でいつものように歩きかけたフォルカーさんが、ふと立ち止まる。
フォルカー「俺の隣を歩いてくれ。特に小さいので……見失いそうだ」
〇〇「……」
優しさの滲む言葉に心を揺さぶられて、今までより心が弾む。
私はフォルカーさんの隣に並び、街へ向かった…―。
街を案内してもらっていると、不意にフォルカーさんが口を開いた。
フォルカー「すまない……俺といると窮屈だろう」
〇〇「え……?」
フォルカー「仕事のことになるとつい、妥協ができなくて、不快な思いをさせた気がする。 〇〇姫には、優しくしようと努めていたんだが……」
〇〇「いえ、私は大丈夫です……さっき、フォルカーさんの部下の方が教えてくれましたし」
フォルカー「何……?」
〇〇「フォルカー王子は仕事の鬼だけど、本当は優しいからって」
フォルカー「っ……そ、そう思っている部下もいるだろうが……皆が皆そう思っているわけではない。 姫のことも、怖がらせないよう……十分に留意するつもりだ」
悲しげな顔で、自らを戒めるように言うフォルカーさんに、なぜだか胸が締めつけられた…-。