スパークリングワインとおいしいチョコレートを堪能して、アンタレスさんと一緒にバーを出た。
夜の帳が降りて、街はライトアップもされすっかり印象を変えている。
アンタレス「夜になると冷えてくるな。大丈夫か?」
アンタレスさんが、どこか機嫌のよさそうな様子で聞いてくれた。
〇〇「はい、私は……アンタレスさん、なんだか楽しそうですね」
アンタレス「そうか?」
〇〇「はい、何かいいことがあったんですか?」
アンタレス「そうだな……それは秘密だ」
アンタレスさんは、含みのある笑みを浮かべてくすりと笑った。
アンタレス「それよりも、アンタの宿泊先は、まだこの先だったな。 宿まで送っていく」
(気になるけど、教えてはくれないみたい……)
話を変えるようにそう言ってくれたアンタレスさんに、私は……
〇〇「ありがとうございます」
(まだ話したかったけど……もう遅いし仕方ないよね)
名残惜しく感じながらも、お礼を告げた。
アンタレス「送っていくのは当然のことだからな。夜一人で歩かせるわけにはいかない」
そう言うと、アンタレスさんはそっと私の肩を引き寄せて、抱きしめるようにして歩き始めた。
(っ……恥ずかしいけど……嬉しいな……)
その後は、言葉少なに二人寄り添って宿まで歩いた。
…
……
宿の前まで来ると、アンタレスさんは足を止めてそっと私の肩を離した。
(本当に今日はこれでお別れなんだ……)
切ない心地になっていると、アンタレスさんの手がそっと伸びてきて……
手の甲で優しく私の頬を撫でる。
アンタレス「そんな顔するな。いちいち反則すぎる」
〇〇「……っ」
アンタレス「もしかしてこれだけだと思ってるのか? まだ準備してるものがあるから……それはまた明日だ。 明日も……アンタに、会いたい」
〇〇「アンタレスさん……」
ぎゅっと胸が苦しくなる言葉をもらって、熱い感情が湧き上がる。
アンタレス「だから今日はこれで、我慢しろ」
優しく頬を撫でていたアンタレスさんの手が、ふわりと私の前髪を掻き上げたかと思えば…-。
〇〇「っ……」
柔らかくしっとりとした唇が、軽く額に押しつけられた。
不意打ちのキスに驚きを隠せずにいると、唇を離したアンタレスさんがふっと笑う。
アンタレス「じゃあまた明日な。おやすみ」
〇〇「っ……おやすみ、なさい……」
最後、艶やかな笑みを残して夜の街へ消えていくアンタレスさんの後ろ姿を、はち切れそうに高鳴る胸元をぎゅっと押さえて見送ったのだった…-。