アンタレスさんが連れて行ってくれた店は、とても大人な雰囲気の素敵なバーだった。
アンタレス「何飲む?」
席に着くとすぐに、アンタレスさんが聞いてくれるけれど、あまり行き慣れない店の雰囲気にどうすればいいのか戸惑ってしまう。
すると……
アンタレス「迷うようなら、このスパークリングワインがおすすめだ」
上品なデザインのメニューを指し示すアンタレスさんの細くて長い指の先は、爪先まで綺麗に手入れされていて、とても美しい。
(男性だけど、こんなに隅々まで気を使って綺麗にしてるんだな……)
アンタレス「〇〇? このワインでいいなら、他に合いそうなチョコレートも一緒に注文するぞ?」
〇〇「は、はい。お願いします」
(私、思わず見とれて……恥ずかしい)
頬が熱くなるのを感じながら、慌てて返事をした。
…
……
運ばれてきたロゼのスパークリングワインは、店の照明に反射して輝き、とても綺麗で……
〇〇「綺麗…」
思わず、思ったままを口にしてしまう。
アンタレス「そうだな。グラスも上等なものが使われている」
アンタレスさんは深く頷きながら同意してくれた。
その後、そっと唇を寄せて飲んでみたスパークリングワインの味は……
〇〇「ん……すごくおいしい。口あたりも柔らかくて飲みやすいです」
アンタレス「女性が飲みやすい、やや甘めのスパークリングワインだ」
アンタレスさんはそう言いながら、一つチョコレートを指先で摘まんだ。
そのままそっと、私の口元へチョコレートを差し出す。
アンタレス「このチョコレートと一緒に口に含めば、さらにおいしいはずだ」
〇〇「……は、はい」
(恥ずかしい……でも……)
おずおずと口を開くと……
アンタレスさんはチョコレートを、ころんと私の口の中へ入れてくれた。
〇〇「ん……本当。すごくおいしい!」
口の中いっぱいに広がる甘い幸福感に、自然と笑みが深くなる。
〇〇「このスパークリングワインとチョコレート、こんなにも相性がいいんですね」
アンタレス「そうだな」
嬉しくて饒舌になりつつある私に、アンタレスさんは微笑みながら頷いてくれた。
けれどその直後、何やら考え込むような表情になり……
(どうしたのかな?)
不思議に思ったものの、その憂い顔はすぐに消え去りいつもの表情に戻った。
アンタレス「気に入ったようでよかった。ここへ連れてきた甲斐があったな」
〇〇「……はい。ありがとうございます」
アンタレスさんもワイングラスを傾けて、一口ワインを口の中で転がす。
様になっているその姿に、またしても見とれそうになっていると……
アンタレス「愛の日は、その名の通り愛を伝える日だ。だからどうしても、アンタに会いたいと思った」
〇〇「っ……!」
アンタレスさんの深く濃い色をたたえた瞳が、じっと私をとらえた。
〇〇「……嬉しいです。ありがとうございます」
アンタレス「アンタも、少しでも会いたいと思ってくれたってことか?」
あまりに率直な問いに戸惑うものの、高鳴る鼓動を押さえながら私は、小さく頷いたのだった。
その後……
〇〇「っ……」
テーブルの上に置いた私の手に、アンタレスさんの手が重ねられた。
包み込むように優しい温もりに、いっそう鼓動は早鐘を打ってしまう。
(恥ずかしい……でも、こうしていたい……)
吸い込まれそうなアンタレスさんの情熱的な瞳を直視できるはずもなく、私はただ恥じらいながらワイングラスを傾けていたのだった…-。