月SS 高鳴る鼓動

町に侵入したモンスターを討伐した、その日の夜…-。

俺は○○の部屋で、戦闘中に負った傷の手当てを受けることになった。

○○「少し染みるかもしれません……」

ソファーに並んで座った後、彼女が顔を覗き込んでくる。

そして、口元に出来た傷に、消毒液のついた綿をあてられた瞬間……

プリトヴェン「……っ」

○○「あっ、すみません」

プリトヴェン「いや……」

俺は口元に走った痛みに思わず顔をしかめた後、大丈夫だとばかりに小さく首を振る。

(……この程度の痛みなんて……)

(大切な君を失う痛みに比べたら、こんなもの……)

傷の手当てを受けながら、先ほどの戦いを思い出し、自分の不甲斐なさに、深くうなだれてしまう。

(……君がモンスターに襲われたあの時、本当に生きた心地がしなかった)

(俺のせいで、君をあんな目に遭わせてしまうなんて……)

俺は、なおも不甲斐ない自分を責め続ける。

その時……

○○「あの、プリトヴェンさん……ごめんなさい」

プリトヴェン「……え?」

なぜか謝罪の言葉を述べる○○に、思わず顔を上げる。

すると、目の前の彼女は、心から申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

○○「言うことを聞かず、そのせいで危険な目にも遭わせちゃって……怒ってますよね」

(怒って……?)

プリトヴェン「! いや違うんだ……君に怒ってるわけじゃなくて……」

(危険な目に遭わせただけじゃなく、この上、誤解まで……)

(どこまで、俺は……)

プリトヴェン「腹が立つのは自分に対してだ」

○○「自分……?」

彼女の誤解を解くため、俺は自分の思いを口にする。

プリトヴェン「俺は……ちゃんと君を安全な場所まで送り届けなかった。 俺が判断を誤ったから、君を危険にさらしてしまった。 あのとき、君から離れるべきじゃなかった……」

思い出すだけで悔しさが込み上げ、自分への怒りに顔が歪む。

○○「違います、プリトヴェンさんのせいなんかじゃ…-」

(いいや、俺のせいだ)

(生まれて初めて見つけた特別な人を、俺は……)

なおも込み上げる悔しさと、大切な彼女を失っていたかもしれない恐怖から、唇を噛みしめた時……

渇き始めていた口元の傷に裂けるような痛みが走った。

○○「プリトヴェンさん、傷が……」

彼女が、俺へと手を伸ばす。

次の瞬間、俺は弾かれたようにその手を掴み……

○○「え……?」

彼女の体を引き寄せた後、衝動に突き動かされるまま、唇を塞ぐ。

○○「……っ……」

(○○……っ)

口元の傷から流れ出る血に構うことなく、無我夢中で○○を求め、長い長い口づけを交わした後……

俺は彼女の華奢な体を、腕の中へと抱き寄せた。

(駄目だ……もう抑えられない)

プリトヴェン「○○が大事なんだ……想いが止まらない…。 おかしいって思う? だって出会ってばかりなのに……けど。 君をひと目見たときから、俺は……」

二人きりの部屋に響く俺の声は、驚くほどに切なく……

自分がどれほどまでに彼女を想っているのかを、痛感させる。

プリトヴェン「……もう二度と、君を危険な目には遭わせない。 盾を擁する王子の名において誓う。だから……。 どうか傍にいさせてほしい……」

俺は、胸に秘めた想いの全てを彼女へとぶつけた。

(……言ってしまった)

(でも、後悔はない!)

そう思いながらも、俺の鼓動は痛いくらいに高鳴っている。

(くそ……静かにしろよ、俺の心臓……!)

すると……

(あ……!)

彼女はまるで想いに応えるかのように、そっと俺の背へと腕を回してくれた。

(……ありがとう)

ぐっと、もう一度○○を抱き直し、その存在を確かめる。

(これまで俺は、一国の王子、そして騎士として、誰一人傷つけさせないと誓いながら戦ってきた)

(これからも、この思いは変わらない。だけど、君のことは……)

(盾を擁する王子、そして……君を愛する一人の男として、生涯、守り続けると誓うよ)

(この命に代えても、必ず……)

腕の中の彼女を抱き締める腕に、力を込める。

二人きりの部屋には、お互いの鼓動だけが静かに響いていた…-。

 

おわり。

 

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