リカさんに連れられて来た城の厨房には…―。
小さくカットされたフルーツと一緒に様々な一口サイズの焼き菓子やマシュマロが用意されていた。
リカ「よし、後はチョコレートソース作れば完成」
リカさんは製菓用のチョコレートをナイフで細かく刻んで湯せんにかけ始める。
(作ったことないって言ってたのに……)
鼻歌を歌いながらへらでチョコレートを練りとかす彼は手慣れて見える。
思わずその腕前に感心して見入ってしまうと……
リカ「……そんな不安そうな目で見るなよ」
○○「違います、そうじゃなくて…―。 もしかして、リカさんの作るショコラって……チョコレートフォンデュですか?」
首を傾げる私に彼がぐっと言葉を詰まらす。
リカ「……チョコ溶かしてソース作っただけじゃんとか言うなよ?
お前が、俺の作ったショコラを食べたいって言ったんだろ?」
○○「はい……」
少し恥ずかしそうに言う彼を見て、私まで顔が熱くなってくる……
(でもすごくいい香り……これってカカオなのかな?)
次第に厨房に漂い始めた芳香に、深く息を吸い込む。
リカ「……いい匂いだろ? 街中の店を回って、フレッシュフルーツの香りに負けない
力強いカカオのチョコを探してきた。 製菓材料や素材の目利きだけは誰にも負けない自信あるか
ら」
彼はへらを持つ手を上げて、リボン状に落ちるチョコレートソースを指ですくって自分の口元へ運んだ。
リカ「……この深いコク、完璧だな」
○○「あ…―」
満足げな声が聞こえたかと思えば、彼は私の腰元を引き寄せて…―。
リカ「お前も早く食べた方がいいぞ」
リカさんは私を抱き寄せ、真っ赤なイチゴをくわえた。
リカ「……このイチゴも旬なだけあって、甘くていい香りがする。 最高のチョコレートに最高のフルーツの組み合わせなら、おいしいに決まってるよな? ほら、早くしないとチョコレート固まるぞ。食べろ」
○○「え!? このままですか?」
彼に、溶けきったチョコレートの入ったボウルを手渡される。
リカ「……なんだよ、不満か?」
○○「いえ……いただきます」
ピックフォークに刺したイチゴにチョコレートを絡め、口に運んだ。
○○「……っ、おいしい……」
(なんだか幸せな気分になる味……)
リカ「……そうだろ?」
リカさんは嬉しそうに笑って、次のフルーツに手を伸ばした。
彼に勧められるままにショコラを楽しむ二人きりの甘い時間……
○○「これが……私のためにリカさんが選んでくれたショコラなんですね」
リカ「……リカって呼べよ」
○○「え?」
リカ「どうでもいい相手だったら俺はこんな面倒なことしない」
リカさんはチョコレートソースを絡めたイチゴを指先で私の唇に押しつける。
リカ「○○のためだから、特別に作ってやったんだからな」
○○「特別……」
唇に押しつけられたイチゴがゆっくりと口の中に入り込み、ビターな味わいのチョコレートが甘く溶けていく……
目の前にある彼の腕をよく見れば…―。
○○「これって、もしかして……火傷?」
リカ「……バカ、そこは気づくんじゃねえよ」
慌てて彼が私の視線からところどころ赤くなった腕を隠す。
(やっぱり初めてだし、がんばって無理してくれてたんだ)
リカ「……」
リカさんは何かを迷うように自分の唇の端へ触れると、そっと私の耳元に手を当て囁いた。
リカ「それくらいお前のことが特別なんだよ、わかれ」
○○「ありがとう、リカ……」
そう彼の名前を口にした私は、甘い香りに包まれる中、満面の笑みを浮かべたのだった…―。
おわり