リカさんと一緒に裏庭からショコルーテの城に忍び込むと…-。
玉座の間へ続く廊下は、新作のショコラを手にした人々で溢れかえっていた。
リカ「……予想以上だな」
〇〇「味見、大変そうですけど大丈夫ですか?」
(さっきあんなにいろいろ食べたし……)
リカ「余裕。それが目的で戻ってきたんだしな」
〇〇「え?」
リカ「サンプルが多い方が、お前の欲しがるショコラが見つかるだろ」
その時…-。
??「あれ、そこにいるのダークか?」
〇〇「!」
リカさんの顔を見た、街のショコラティエと思われる男性が近づいて来る。
リカ「……っ、ああ。お前も王子の味見に新作出したの?」
リカさんは自分の唇を触りながら、街でのダークの姿を装う。
街のショコラティエ「もちろんだよ! 王子のお墨付きをもらえば、世界中から俺のショコラを買いに来るお客さんができるからね!」
リカ「そっか……」
リカさんはふと辺りを見渡して、護衛の視線から死角となる柱の陰に身を寄せた。
街のショコラティエ「それより、ダークはなんで城にいるんだよ?」
リカ「え? 城に人が大勢いるって聞いたから、どんなもんかと見に来ただけ」
街のショコラティエ「ははっ、お前も物好きだなぁ。また俺の店にも遊びに来いよな」
笑いながら去っていくショコラティエに苦笑しながら、リカさんは柱に背もたれる。
リカ「……なんとか護衛には気づかれなかったみたいだな」
〇〇「ちょっとドキドキしてしまいました……」
リカ「俺も……」
リカさんは深いため息を吐いて私の肩を柱の陰へと抱き寄せた。
(ち、近い……)
護衛の死角に入るためとわかっていても、心臓が跳ねるのを止めることができない。
〇〇「あの、今まではバレそうになったことはなかったんですか?」
リカ「ないな。あー、ほんとビビった……。 ……よし、こっち見てないみたいだし、今のうちに部屋に戻るぞ」
足音を消す彼に手を引かれて、城の奥へと向かったのだった。
連れて来られたのは客間ではなく、リカさんの部屋だった。
少し緊張しながら、窓辺から夕陽が差し込む部屋をぐるりと見渡す。
(私が入っていいのかな……?)
その時…-。
〇〇「……っ」
分厚い絨毯の上を歩く私をリカさんが背中から抱きしめた。
〇〇「リカさん!?」
リカ「……何?」
背後でリカさんが深く息を吐き出す音が聞こえた。
リカ「……俺、さっきのでまだドキドキしてるみたいだ」
〇〇「あ……さっきの……」
(びっくりした……気が抜けただけだったのかな?)
頬が熱くなるのを感じながら、私の肩口に顔を埋める彼へ視線を移す。
〇〇「私は……ダークさんがリカさんだってわかっても、大丈夫だと思いますよ?」
リカ「……。 どうかな、俺は、不安だ」
リカさんは私の視線から逃れるように、さらに私の体を強く抱き寄せる。
(……リカさんでも不安になったりするんだ)
普段の彼とはまったく違うまるで甘えるような仕草に、私は少しだけ嬉しくなって、しばらくの間、抱擁を受け止めたのだった。
…
……
やがて窓の外で夕陽が山の稜線に隠れると、リカさんは顔を上げた。
リカ「なあ……お前、俺のショコラ欲しいって言ったじゃん? 具体的に何が欲しいの?」
問いかけるリカさんの甘そうな蜂蜜色の瞳に深く見つめられて、私は目が離せなくなってしまったのだった…-。