ショコルーテのカフェで、彼からのチョコレートが欲しいとつい口にしてしまった私に…-。
リカ「じゃあ、期待して待ってろ」
彼はそう言って笑ったのだった。
カフェを出て甘いチョコレートの香りの漂う大通りを隣り合って歩く。
リカ「俺のショコラか……」
〇〇「リカさん?」
小さくつぶやかれた声に問いかければ、彼はいきなり歩みを止めた。
リカ「城に戻るぞ」
〇〇「え? はい……」
(いきなりどうしたのかな?)
彼についていけば…-。
そこはショコルーテの城の裏庭だった。
〇〇「……どうして庭から?」
リカ「来客が多い期間なんだよ。さっき恋するショコラの話をしたけど……。 今、城にショコラを持ってきたら、俺が味見してやるってことになってるから。 ダークとしての俺を知ってる奴とかに会うと厄介だろ?」
(そうか、偽名でお城の外に出ていることは秘密だから……)
中庭からそっと城に侵入するリカさんに続いて、私も中に入る。
〇〇「ダークさんがリカさんだって知っても、皆さん驚かない気もしますけど……」
リカ「そんなことないだろ……この国の王子は引きこもりだけど優秀だってことになってんだし」
〇〇「でも……」
(本当のリカさんは実際、こんなに国のことを考えてるのにな……)
少し寂しくなって彼の背中を見る。
するとリカさんは私を振り返って、少し眉を寄せた。
リカ「ダークっていう自由な自分でいられる時間があるから、王子としても頑張れる……そういう感じだから。 見逃してくれよ……わがままで、ガキみたいなことやってるって自覚はあるし」
その時のリカさんは珍しくどこか孤独そうに見えて、私は……
(なんて言ったらいいんだろう……)
胸がちくりと痛んで、私は言葉にできず彼の服の裾を掴んだ。
リカ「……〇〇?」
〇〇「あの……ごめんなさい」
リカ「……なんで謝んの?」
〇〇「……なんとなく?」
リカ「なんだよ、それ」
彼は一瞬間をおいて小さく笑い出す。
〇〇「リカさん?」
(今の……寂しそうに見えたけど、違ったのかな?)
リカ「じゃあ城の中だけど、このまま手を繋いでデート気分で歩くか?」
〇〇「えっ……?」
リカ「ほら、こっちに手を出す」
〇〇「でも……」
(さっきお城に知り合いがいたらって言ったばかりなのに……)
〇〇「あっ」
迷っていれば、彼の手が強引に私の手を取った。
リカ「時間切れ。このまま行くぞ」
城に咲いた花の甘い香りが鼻孔をくすぐる中……
リカ「……お前といると、楽しくていいな、いろいろ忘れられる……」
彼は私に背を向けたまま、小さくそうつぶやいたのだった…―。