第3話 笑顔が見たいから

大通りをリカさんと歩きながら、様々なショコラを試食して……

その後、私達はカフェで休憩を取ることにした。

リカ「コーヒー、ブラックで。お前は?」

〇〇「カフェオレを」

ウェイター「かしこまりました」

オーダーを済ませると私は、ほっと一息つくと窓の外を見た。

すると……

リカ「俺が目の前にいるのに、外が気になるわけ?」

〇〇「え?」

(そういうわけじゃないけど……)

リカ「……ああ、こういう言い方すると誤解されるんだっけ? まあいいや、お前の表情がくるくる変わるの面白いし」

ふっと意地悪そうな笑みを浮かべるリカさんに、私は再び口を開いた。

〇〇「あの、リカさん……」

リカ「今は『リカ』じゃない」

〇〇「……ごめんなさい。えっと、恋するショコラってなんなんですか?」

リカ「そこ、今さら聞いてくる?」

〇〇「はい……」

リカ「……」

彼はテーブルの上に肘をつき、端正な目元をすがめた。

(聞いちゃいけないことだったのかな? 店員さんはギフト用のショコラって言ってたけど……)

しばらくするとリカさんは視線を逸らしながら……

リカ「……チョコって好きな奴は毎日食べてたりするけど、なくても生きてけるだろ?」

〇〇「はい」

リカ「そうじゃなくて、なんかチョコレートじゃなきゃダメだ! みたいなのが欲しくてさ。 チョコレートをプレゼントするのが、格好いい……みたいなの作りたくてさ。 一応、この国の王子として」

少し恥ずかしそうにしながらも、彼は私の耳元に真面目な声で語りかける。

〇〇「チョコレートじゃなきゃダメなもの……」

その時、ウェイターがテーブルにやってきてリカさんは口を閉ざした。

ウェイター「よろしければ、こちら当店の新作になりますのでどうぞ」

宝石のようなショコラがふた粒、小さな銀の皿に乗せて差し出される。

〇〇「素敵……」

いろんなショコラを試した後なのに、自然と頬が緩む。

ウェイターがテーブルを離れると、私はさっそくそのショコラに手を伸ばした。

リカ「ほら、そうやって笑顔になるじゃん、チョコ食べると」

〇〇「え?」

ショコラを食べる私を見て、リカさんの唇がほころぶ。

〇〇「あんまり見ないでください……なんか恥ずかしいです」

リカ「恥ずかしがる必要ないだろ? そういう笑顔が見たくて、もっとたくさんの人にチョコ食べて欲しいって思ってんだからさ……」

〇〇「それで、恋するショコラだったんですね」

柔らかな微笑みの中にも彼の真剣な気持ちがしっかりと見えて、くすぐったさに胸がきゅんと小さく跳ねる。

リカ「だからさ……。 人に贈りたくなるようなショコラを作って、皆にギフトにしてもらえればって思ったわけ。 もうすぐ『愛の日』って記念日があるから、その日に合わせて」

〇〇「愛の日?」

リカ「ああ、贈り物を通して身近な人とかに愛を伝える日みたいなの」

〇〇「素敵ですね」

(愛を伝える日か……)

〇〇「……私も、リカさんからのチョコレートなら、欲しいな……」

リカ「は……俺!?」

〇〇「あ……っ」

(どうしよう、私うっかり口に……!)

目を大きくしてこちらを見るリカさんに私は……

〇〇「す、すみません……」

リカ「いいよ。今のは……お前の本音だって思っていいんだろ?」

〇〇「あ……」

くすっと笑った彼が私の前髪を指先で払うように梳く。

(もしかして……リカさん、嬉しいのかな?)

揶揄するような指先の動きのわりに、彼の表情は穏やかで……

リカ「じゃあ、期待して待ってろ」

〇〇「えっ、いいんですか?」

リカ「ダメなら期待しろなんて言わないだろ」

そう言って、彼は伝票を片手にして席を立ったのだった…-。

 

 

 

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