大通りをリカさんと歩きながら、様々なショコラを試食して……
その後、私達はカフェで休憩を取ることにした。
リカ「コーヒー、ブラックで。お前は?」
〇〇「カフェオレを」
ウェイター「かしこまりました」
オーダーを済ませると私は、ほっと一息つくと窓の外を見た。
すると……
リカ「俺が目の前にいるのに、外が気になるわけ?」
〇〇「え?」
(そういうわけじゃないけど……)
リカ「……ああ、こういう言い方すると誤解されるんだっけ? まあいいや、お前の表情がくるくる変わるの面白いし」
ふっと意地悪そうな笑みを浮かべるリカさんに、私は再び口を開いた。
〇〇「あの、リカさん……」
リカ「今は『リカ』じゃない」
〇〇「……ごめんなさい。えっと、恋するショコラってなんなんですか?」
リカ「そこ、今さら聞いてくる?」
〇〇「はい……」
リカ「……」
彼はテーブルの上に肘をつき、端正な目元をすがめた。
(聞いちゃいけないことだったのかな? 店員さんはギフト用のショコラって言ってたけど……)
しばらくするとリカさんは視線を逸らしながら……
リカ「……チョコって好きな奴は毎日食べてたりするけど、なくても生きてけるだろ?」
〇〇「はい」
リカ「そうじゃなくて、なんかチョコレートじゃなきゃダメだ! みたいなのが欲しくてさ。 チョコレートをプレゼントするのが、格好いい……みたいなの作りたくてさ。 一応、この国の王子として」
少し恥ずかしそうにしながらも、彼は私の耳元に真面目な声で語りかける。
〇〇「チョコレートじゃなきゃダメなもの……」
その時、ウェイターがテーブルにやってきてリカさんは口を閉ざした。
ウェイター「よろしければ、こちら当店の新作になりますのでどうぞ」
宝石のようなショコラがふた粒、小さな銀の皿に乗せて差し出される。
〇〇「素敵……」
いろんなショコラを試した後なのに、自然と頬が緩む。
ウェイターがテーブルを離れると、私はさっそくそのショコラに手を伸ばした。
リカ「ほら、そうやって笑顔になるじゃん、チョコ食べると」
〇〇「え?」
ショコラを食べる私を見て、リカさんの唇がほころぶ。
〇〇「あんまり見ないでください……なんか恥ずかしいです」
リカ「恥ずかしがる必要ないだろ? そういう笑顔が見たくて、もっとたくさんの人にチョコ食べて欲しいって思ってんだからさ……」
〇〇「それで、恋するショコラだったんですね」
柔らかな微笑みの中にも彼の真剣な気持ちがしっかりと見えて、くすぐったさに胸がきゅんと小さく跳ねる。
リカ「だからさ……。 人に贈りたくなるようなショコラを作って、皆にギフトにしてもらえればって思ったわけ。 もうすぐ『愛の日』って記念日があるから、その日に合わせて」
〇〇「愛の日?」
リカ「ああ、贈り物を通して身近な人とかに愛を伝える日みたいなの」
〇〇「素敵ですね」
(愛を伝える日か……)
〇〇「……私も、リカさんからのチョコレートなら、欲しいな……」
リカ「は……俺!?」
〇〇「あ……っ」
(どうしよう、私うっかり口に……!)
目を大きくしてこちらを見るリカさんに私は……
〇〇「す、すみません……」
リカ「いいよ。今のは……お前の本音だって思っていいんだろ?」
〇〇「あ……」
くすっと笑った彼が私の前髪を指先で払うように梳く。
(もしかして……リカさん、嬉しいのかな?)
揶揄するような指先の動きのわりに、彼の表情は穏やかで……
リカ「じゃあ、期待して待ってろ」
〇〇「えっ、いいんですか?」
リカ「ダメなら期待しろなんて言わないだろ」
そう言って、彼は伝票を片手にして席を立ったのだった…-。