ショーウィンドウを覗きながら大通りを二人で歩いていると、あるショップからリカさんを見つけた店員さんが顔を出した。
ショップ店員「ダーク、いいところに来たな! うちの新作食べていけよ」
リカ「ん? ああ、いいぜ」
(ダーク……)
手招きに応じて店に入る彼を見て、私は彼と初めて会った時のことを思い出した。
リカさんは『ダーク』という偽名を使って、時おり身分を隠しては街をふらつくことがあったのだ。
彼が言うには街の人達との交流という名目らしい。
(リカさん、相変わらず続けてたんだ)
(人前でリカさんの名前を呼ばないように気をつけよう)
リカ「こいつの分も頼むよ」
〇〇「え!?」
急にリカさんに腕を引かれて、カウンターの前に座らされた。
店員さんは満面の笑顔でガラスケースの中からショコラを取り出す。
ショップ店員「もちろん。女の子の意見は大歓迎だよ! なんたって『恋するショコラ』が今回のテーマだからね」
〇〇「恋するショコラ……?」
リカ「こいつに説明してやって」
カウンターに肘をつきながらリカさんが私を指差す。
ショップ店員「実はうちの国のリカ王子がね、なんかショコラをもっと世界中に売り出したいらしくてさ。 今、ギフト用のショコラを作ることが奨励されてるんだよ」
〇〇「リカ王子……」
私は思わず隣で適当に相槌を打っていたリカさんに視線をやった。
リカ「……」
彼は軽く首を振って、店員さんの話を聞くように私に促す。
(そうか、あんまり見てたら怪しまれるかも……)
すると…-。
ショップ店員「ダーク? どうしたんだ?」
リカ「ん? なんでもない。とりあえず、最高の一粒を出してみろよ」
にやりと挑戦的な笑みを浮かべる彼は、店員さんに渡されたショコラを口に含んだ。
リカ「そうだな、この深いコク……俺は好き。カカオがしっかり主張してる。 それにこの刺激はチリペッパーか? アクセントになっていていい。大人は好きそう。 けど、〇〇、お前はどう?」
私は彼に問われて、ショコラを一粒食すと…-。
〇〇「私もわりと好きな味です。こういうビターなのっていいですよね」
リカ「へえ……」
彼は意外そうな顔してもう一口ショコラを口に放り込むと……
リカ「……女って、こうふわっと甘いのが好きなんだと思ってた。 けど、お前みたいなのもいるんだな」
ふわりと彼の目元が柔らかく細められる。
(ショコラより、こっちの方が甘いかも……)
〇〇「えっと、甘いのも好きですけど、濃厚なのはショコラを食べたって感じがするので……」
なぜか心臓が騒ぎ出して適当なことを言うと、彼はスツールから立ち上がった。
リカ「じゃあ、次はあっちの店のも食べてみようぜ」
〇〇「あ……っ」
そのままリカさんは店を出てしまう。
慌てて私が頭を下げると、店員さんは苦笑して見送ってくれたのだった…-。