モンスターの咆哮と地鳴りが一層、大きくなっている…-。
兵士1「○○姫様……!? ここは危険です。急いで避難なさってください」
○○「ごめんなさい。それが……」
私は彼に、城壁の方へ走っていった女の子のことを説明した。
兵士1「わかりました。周辺を探してみます。姫様はすぐに、この場を離れてください」
そう言い残し兵士が立ち去った直後、一際激しい音と共に土煙が上がり……
城壁を突き破って、巨大なモンスターが私の前に立ちはだかった。
○○「……!」
(大きい……!)
荒々しい息を吐き出す巨大モンスターは、まるで血に飢えた恐竜のようだった。
怯えながら後ずさるけれど、瞳孔を開いたモンスターの目は、確実に私を捉えている。
(逃げなきゃ……でも、体が震えて動けない……)
モンスター「ギシャアアッッッ……!」
○○「……っ!!」
地を這う雄叫びに、ぎゅっと目を閉じた瞬間……
モンスターの咆哮を跳ね返すような、重厚な音が響き渡った。
(え……?)
恐る恐る目を開けた私は、震える声で彼の名を呼んだ。
○○「プリトヴェンさん……」
身を屈めモンスターの懐に入ったプリトヴェンさんは、盾一つで敵の動きを封じ込めている。
プリトヴェン「○○には傷ひとつ、つけさせはしない……!」
大きな盾を自在に操り、プリトヴェンさんはモンスターを城壁の外へと追い詰めていく。
プリトヴェン「大人しく引っ込んでいろ…っ! ハアアッ……!!」
プリトヴェンさんが盾を薙払うと、モンスターは持ちこたえられずに、弾き飛ばされた。
モンスターの唸り声はか細くなって、倒れたまま起き上がる気配はない。
(……もう大丈夫……?)
応援に駆け付けた兵士さん達が、倒れたモンスターを取り押さえる。
プリトヴェン「○○……!」
プリトヴェンさんが、座り込む私の方へと走り寄ってくる。
彼は服が汚れるのも気にせず、私の前に膝をつくと、強い力で自分の胸へと抱き寄せた。
プリトヴェン「間に合ってよかった……」
一度ギュッと抱きしめてから、ハッとしたように顔を上げる。
プリトヴェン「○○、怪我は……!?」
○○「ありがとうございます。私は大丈夫です。それよりプリトヴェンさんこそ……」
プリトヴェン「俺のことなんてどうでもいいよ、本当にどこも痛くないか!?」
○○「はい」
しっかり頷くと、プリトヴェンさんは心底ホッとしたように眉を下げ、また私を掻き抱いた。
プリトヴェン「君が探していた女の子は、ここへ来る途中見つけて、兵士に預けてきた」
○○「! そうですか、よかった……」
彼の腕の中、安堵して体の力を抜くと、ますます強く抱きしめられた。
○○「あ、あの……?」
彼の胸に顔を埋め、頬が熱を持っていく。
プリトヴェン「……生きた心地がしなかった。 初めて見つけた特別な人なのに……。 君を失うなんて耐えられない……!」
(特別な人って……)
プリトヴェンさんはまるで存在を確かめるように、私をきつく抱きしめている。
○○「あ、あの……プリトヴェンさん……」
プリトヴェン「……!」
プリトヴェンさんは私の声を聞き、弾かれたように顔を上げた。
プリトヴェン「ご、ごめん……!」
慌てて離れると、あたふたしながら視線をさまよわせる。
プリトヴェン「今のはその! つい勢いで……! あ、でも勢いで言ってしまったけど、気持ちは本当で……っ!」
くしゃりと自分の髪を掴むと、盛大にため息をつく。
プリトヴェン「ああ、もう……何言ってるんだ俺は…。 ほんとにごめん……突然こんなこと言われたって困るよな……」
言葉はどんどん弱々しくなっていき、最後の部分は消え入りそうだった。
(確かにドキドキしすぎて、少し困るけれど……でも……)
○○「……嬉しかったです」
プリトヴェン「え?? ……えっ!?」
信じられないという表情で、プリトヴェンさんが目を丸くする。
プリトヴェン「ほ、ほんとに……?」
○○「はい……」
照れながら頷くと、驚いていた彼の顔に満面の笑みが広がり……
プリトヴェン「……っしゃああっっ!!」
喜びの声を上げるのと同時に、プリトヴェンさんは私のことを再び抱きしめた。
(凛々しくて、強くて……素直な人)
プリトヴェンさんの腕に抱かれていると、さきほどの恐怖が嘘のように消えていく。
その心強さとあたたかさは、私を守ってくれる大きな盾のようだった…-。