ラスさんと心を通わせることができてから、数日…ー。
ラス「これから会議だ。ごめん、なかなか二人きりになれなくて」
ラスさんは国王様と少しずつ打ち解け始め、公務にも精を出すようになっていた。
○○「私は大丈夫です。お仕事、頑張ってくださいね」
ラス「えっ?それだけ……? ……やれやれ。オレの姫は、寂しいと言って甘えてもくれないんだな」
(え……?)
顎先に触れられ、不意に鼓動が高鳴る。
ラス「オレは全然、○○が足りないんだけど?」
甘い吐息が頬をかすめ、柔らかなキスが落とされる。
ラス「……公務の前だから、今はこれで我慢する。 それに、人目もあるしね」
○○「ラスさん……」
自分なりに節度を保とうとしている彼は、なんだかとても可愛くて……
(私……どんどんラスさんに惹かれていく)
甘く温かな想いを胸に、私は彼を見送ったのだった…ー。
…
……
その夜……
城では、国王様主催の舞踏会が開かれていた。
ラス「そのドレス、ちょっと胸元が開きすぎじゃないか?」
○○「そうですか?普通だと思いますけど」
ラス「駄目。他の男が欲情したらどうするの」
ラスさんはショールを私の肩に巻き、なんとかして隠そうとする。
(今までのラスさんなら、喜んで見ていたはずなのに)
不器用な愛情に、微笑ましい気持ちを覚える。
すると……
ラス「あ……ごめん、ちょっと挨拶しなきゃいけない相手がいる」
○○「はい、ここで待っていますね」
少し離れたテーブルに向かったラスさんが、紳士達と挨拶を交わす。
一国の王子の名に恥じない立ち振る舞いに、思わず見惚れていたその時だった。
貴族の男性「ごきげんよう、トロイメアの姫」
○○「えっ?あ……ごきげんよう」
身なりの良い男性はラスさんのお友達らしく、私達はその場で談笑をする。
けれど、少しの後…ー。
ラス「彼女のお相手をありがとう。もう十分だよ」
貴族の男性「なんだよ、ラス。お前のパートナーなら履いて捨てるほどいるだろう」
ラス「あいにく他の女は全部切った」
ラスさんはきっぱりと言い切り、私の肩を抱き寄せる。
ラス「オレは、○○と婚約したから」
(えっ……!?)
高らかに宣言するラスさんに、周囲の人々が目を丸くする。
貴族の男性1「はあ!?なんだそれ!」
貴族の男性2「色魔のお前が結婚なんて……一人に決めるなんてありえないだろう!」
貴族の男性3「詳しく話を聞かせろ!」
大勢から一度に詰め寄られ、私は思わずたじろいでしまう。
すると次の瞬間、ラスさんが私の耳元に顔を寄せ…ー。
ラス「○○、逃げるよ」
○○「えっ?ラスさん……!?」
貴族の男性1「おい!ちょっと待て!」
ラスさんが私の手を引いて走り出す。
そんな私達を、無数の足音が追ってきた…ー。
…
……
城の中を駆け抜けた後、私達は薄暗い空き部屋へと飛び込んだ。
ラス「おいで、ここなら見つからない」
○○「えっ?」
ラスさんと共に、クローゼットへと身を隠す。
すると、私達を追う足音が少しずつ遠ざかっていって…ー。
ラス「……ふう。どうやら撒けたみたいだな」
○○「もう。ラスさんが突然あんなことを言うから……」
薄暗いクローゼットで、私は恨めしげにラスさんを見上げた。
ラス「こういうことは早めに公表しておいた方がいい。 そもそも、オレと婚約したって言い出したのはキミの方でしょ?」
○○「あれは、ラスさんを助けるための嘘で……」
(ラスさんは、ずるい)
(ちゃんと二人で向き合うって決めたはずなのに)
(あの嘘を持ち出して、勝手に……)
ぎゅっと唇を引き結ぶと、ラスさんが困ったような表情を浮かべた。
ラス「そんな顔しないでよ……二人きりになるの、久しぶりなのに」
私の機嫌をうかがうように、ラスさんがそっと顔を覗き込む。
ラス「プロポーズ、ちゃんとオレからした方がいい?」
○○「っ、知りません……」
拗ねる私に、ラスさんが苦笑する。
ラス「あーもう……可愛いなぁ。わかったよ、それじゃ……もう一度、あの花畑に行こう? あの場所で、キミへ永久の愛を誓うよ」
甘さを帯びた声が鼓膜をくすぐり、私はわずかに顔を上げる。
○○「本当ですか……?」
返事の代わりに、ラスさんは幾度か啄むようなキスを落とし……
ドレスから出た鎖骨にも唇を強く押しつけた。
○○「……っ」
だんだんと深まっていくキスと、甘い吐息が互いの唇を濡らす。
ラス「愛してる……○○」
(ラスさん……)
心が通じ合った今、彼の甘い誘いに抗う理由もなく……
狭いクローゼットの中、彼の与える刺激に声を潜めて酔いしれるのだった…ー。
おわり。