このままでは、ラスさんが監獄送りになってしまうと知り…ー。
○○「違います!本当に、後ろ暗いことなんて何もないんです。だって、ラスさんは……」
私は縋るような思いで、国王様に弁明を続けた。
○○「あの時、私に求婚して下さったんです……!」
ラス「!」
国王「何!?まさか、ラスが……?」
○○「ほ、本当です……私はそれをお受けして。 その、二人で誓いの口づけを……」
真っ赤な嘘を話すうち、自分でも顔が熱く火照ってくるのがわかった。
(こんな話をして、ラスさんはどう思うだろう)
(だけど、このままラスさんを監獄に送るわけには……!)
私は恥じらいを覚えながらも弁明を続ける。
すると、しばらくの後…ー。
国王「二人がそんな仲になっていたとは……。 ……わかった。この事は、これからゆっくり話し合うとしよう」
国王様は戸惑いながらも、ほっとしたように目元を和らげた。
…
……
国王様に許され、謁見の間を後にすると…ー。
ラス「こっちへ……」
ラスさんが私の腕を取り、大きな柱の影へと引き込む。
(えっ?)
ラス「○○……」
熱に浮かされたように、ラスさんは私の首筋にいくつもキスを落としていく。
ラス「やっぱり、キミもオレと結ばれたかったんだ?」
○○「っ!そんな……!」
からかい交じりの言葉を受け、頭に血が上る。
○○「私があの時、どんな気持ちで……!」
ラスさんの胸を思い切り押すものの、更に強い力でぎゅっと抱きしめられる。
ラス「嬉しかったよ……オレもキミを妻に迎えたい」
そう囁きながら、ラスさんは私の耳を甘噛みした。
熱い舌先が首筋を這い、激しく求められて……
(でも、こんなのは……!)
あくまで体だけを求めようとするラスさんに、私の心は哀しみと怒りで、ぐちゃぐちゃになる。
○○「それなら……どうして、ちゃんと向き合おうとしてくれないんですか? あなたは、何をそんなに恐れているんですか……?」
ラス「……オレが、恐れているもの?」
私の問いに、ラスさんはぴくりと体を震わせる。
そして、わずかに逡巡すると…ー。
ラス「……形のないもの」
薄く笑みを浮かべながら、彼はぽつりとつぶやいた。
ラス「体は正直だよ。好きなところに触れてあげれば、ちゃんと健気に反応する。 でも……形のない愛は、オレの手に負えない」
(ラスさん……)
ラス「この手で触れられない幸せなんて陽炎のように儚い。 どんなに手を伸ばしても……いずれ消えてしまう。 そんな不確かなものを求めて傷つくぐらいなら、いっそ……」
苦しげな彼の声を聞いた瞬間、花畑での出来事が頭を過ぎる。
(そうか……この人は)
(お母様のようになることが、怖いんだ……)
その色欲があまりに強く、誰とも心を通わせることが叶わなかった彼の母親……
(だけど……)
ラスさんの深い孤独と寄り添うように、そっと彼の手を取る。
○○「それなら……私があなたに心を渡します」
ラス「え……? オレを、好き……?キミの心を、オレにくれるの……? ……そんなの嘘だ。だってそんな子、今まで一人もいなかった、 それに、好きならどうしてオレを拒んで…ー」
○○「好きだからこそ……体の繋がりだけじゃ嫌なんです」
不安げに揺れるラスさんの瞳をまっすぐ見つめて、私は想いを言葉に乗せる。
ラス「……っ」
ラスさんは大きく目を見開いた後、うつむいてしまう。
けれど、長い沈黙の後…ー。
ラス「でも……。 オレはキミを、どう愛せばいいか……わからない」
消え入りそうな声で、ラスさんがつぶやいた。
そんな彼の手を、私は両手でそっと包み込む。
○○「決まった形なんてありません。どんなに不器用でも……。 二人で心を交わしながら、ゆっくりと築き上げていければ、それで……」
ラス「○○……」
ラスさんがそっと、私の頬に触れる。
ラス「いつか……消えてしまうのかもしれない。 この選択を、後悔する日がくるのかもしれない。 だけど、オレは……。 この心も、体も……オレのすべてで、キミを愛してる…ー」
ラスさんはそう言うと、想いのすべてを込めるかのように私をかき抱いた…ー。