罪人としてオレが監獄に送られてから、数日…-。
(まさかオレが、監獄の住人になるとはね……)
(けど……どこかでオレ自身が、この結果を望んでいたのかもしれない)
母を国から追いやった好色の噂は、国家の存続をも危うくさせた。
(それもすべて、皆が色欲の力に惑わされたせいだ)
その力を継いだオレが、トロイメアの姫である〇〇と深い関わりを持てば…-。
(こうなることは、どこかでわかっていたはずなのに)
(それでも、〇〇に執着した理由は、なんだったんだろう……?)
問いかけてもなお、答えは返らず。
(それに……ここへ来てからずっと、オレは何を待っているんだ)
(罪を許されることか? 今さら、誰にー…)
浅はかな考えに、思わず自嘲してしまう。
冷たい壁に背を預け、そっと目を閉じれば……
穢れを知らぬ彼女の、優しい笑顔がそこにあった。
(求めてはいけないと、知っていたはずだ)
(それなのに、オレは……)
牢獄の中で一人、乾いた口の端を持ち上げた。
その時…-。
〇〇「ラスさん……!」
(この声は、まさか……)
まぶたを開けば、誰かが格子の向こうから駆けてくるのが見えた。
(〇〇……)
オレの目の前に、ずっと待っていた人が現れた…-。
…
……
〇〇のおかげで、監獄から解き放たれてから数日…-。
ラス「次の公務まで、どのくらい間がある?」
従者「半時ほどですが、お召し替えもございますので……」
ラス「わかった、すぐに行く」
(仕事に追われていれば、彼女のことを考えずに済む)
(今は少し、距離を置いた方がいい)
ここ数日の間、オレは〇〇に触れたくなる衝動をできうる限り抑えていた。
(苦しいほどの渇きは、前よりずっと薄れてはいるけれど……)
欲情をかき立てる色欲の力が、すべて消え去ったわけではない。
彼女と二人きりになれば、触れたい気持ちが止めどなく湧き上がる。
(それでも、〇〇が心からオレを求めるまでは……)
オレは以前のように、彼女に気安く触れることを、自分に禁じていた。
(キミを大切にしたい。誰よりも……)
…
……
ラス「それじゃ、お休み……」
今夜も後ろ髪を引かれる思いを振り切って、彼女に背を向けた。
〇〇「あ、あの……!」
(え……?)
振り返れば、彼女がためらいがちに言葉を紡ぐ。
〇〇「その……おいしいお茶があるので、少しお話しませんか……?」
男慣れしていない、健気な誘い文句にすら、ぐっと胸を掴まれる。
(二人きりになっても、触れずに耐えられるか?)
正直、まるで自信がない。
けれど、彼女の誘いを断れるまでの強い理性までは、あいにく持ち合わせていなかったー…。
…
……
〇〇「えっと……最近、公務は順調ですか?」
ラス「うん。父の後について、いろんな仕事を覚えてる」
ふとした瞬間に崩れそうになる理性をなんとか保ちながら、彼女と他愛のない言葉を交わす。
会話も途切れがちで、部屋には気まずい空気が流れていた。
すると……
〇〇「もう、冷めてしまいましたか……?」
ラス「え?」
問いかける彼女の瞳が、不安げに揺れている。
(冷めた、って? どうしてそんな顔をするんだ……?)
(もしかして、キミは……)
ラス「あのさ……もし、オレの勘違いじゃないなら。 〇〇……今、オレのこと誘ってる?」
期待半分に尋ねると、〇〇の頬が見る間に赤く色づいた。
〇〇「あの、私……!」
戸惑う彼女を抱き寄せて、吐息がかかる距離まで顔を近づける。
ラス「キミのこと、大切にするって決めたから……。 〇〇の気持ちがオレに追いつくまで、いつまでも待つつもりだった。 二人とも同じ気持ちなら、もう我慢しなくていいんだね……?」
胸の中の想いを言葉に乗せ、〇〇に伝える。
すると、彼女は恥じらいながら頷いてくれた。
〇〇「本当はずっと、ラスさんに触れて欲しくて……」
(っ――!)
彼女の言葉が体の芯を打ち、秘めた欲情を煽られる。
ラス「……それ以上言わないで。 優しくしたいのに、できなくなる…-」
かつてないほどの欲情に身を焦がし、〇〇のすべてが欲しくなる。
(キミの体も、心も……すべてオレのものにしたい)
愛を知ったオレは、前よりも強欲になったのかもしれない。
(強く求めたぶんだけ、愛に傷つき、愛に迷う……)
それでも……
愛しさがこの胸を満たし、彼女しか見えなくなる。
(オレを欲情の海に溺れさせたのは、キミだけだ)
(たとえこの先、愛欲の罪に落ちようとも……)
恐れることなく、彼女を愛し抜こうと誓った…-。
おわり。