監獄を出てからのラスさんは、まるで人が変わったかのようだった。
女性達の社交場にも出向かず、毎日のように城で公務に励んでいる。
ラス「〇〇、もう休む時間だよね。部屋まで送るよ」
〇〇「あ……はい、ありがとうございます」
ラス「じゃあ、オレはここで……また明日」
〇〇「はい……お休みなさい」
夜は私を部屋まで送り届け、指一本触れることなく、そのまま背中を向けてしまう。
(ラスさん……)
けれど、私の心にはすでにラスさんがいて……
あの日の口づけを思い出すたび、触れて欲しいという想いが募ってしまう。
(これじゃあ、前と立場が逆だよね……)
切ない想いを抱きながら、私はラスさんが出て行ったドアを見つめていた…-。
ある日の夜、私はいつものようにラスさんに寝室まで送ってもらった。
ラス「それじゃ、お休み」
(また、今夜もゆっくり話せないまま……)
(そんなの、もう……)
〇〇「あ、あの!」
ふと気づけば、帰ろうとしたラスさんを思い切って呼び止めていた。
ラス「……ん?」
〇〇「その……おいしいお茶があるので、少しお話しませんか?」
すると、ラスさんは一瞬戸惑うような表情を見せて…-。
ラス「もちろん、喜んで」
〇〇「あ……。 わかりました、それじゃあすぐに準備しますね!」
私はそう言って、ラスさんを部屋に招き入れる。
…
……
けれど……
〇〇「えっと……最近、公務は順調ですか?」
ラス「うん。父の後について、いろんな仕事を覚えてる」
〇〇「そうですか。よかったです……」
ソファに並んで腰かけていても、やはり微妙な距離がある。
会話も途切れがちで、気まずい雰囲気が流れていた。
(以前は、こんな感じじゃなかったんだけどな……)
ドキドキさせられてばっかりだったけど、ラスさんの瞳はいつも私を見つめていて……
(やっぱり、ラスさんは……)
〇〇「もう、冷めてしまいましたか……?」
ラス「え?」
唐突にも思える私の言葉に、ラスさんが戸惑いを浮かべる。
(私が、気づくのが遅かったから……)
〇〇「でも私は、ラスさんのこと……」
一度生まれてしまった想いは、簡単に消えたりしない。
切なさが胸を締めつけ、言葉を詰まらせた時……-。
ラス「あのさ……もし、オレの勘違いじゃないなら。 〇〇……今、オレのこと誘ってる?」
そんなふうに聞かれたせいで、頬が一気に熱を帯びてしまう。
いつの間にか、ラスさんはすぐ傍まで距離を詰めていた。
〇〇「あの、私……!」
肩を抱き寄せた後、ラスさんは吐息がかかる距離まで顔を近づけてくる。
ラス「キミのこと、大切にするって決めたから……。 〇〇の気持ちがオレに追いつくまで、いつまでも待つつもりだった」
(ラスさん……)
彼の真剣な表情に、胸が痛いほど高鳴る。
ラス「二人とも同じ気持ちなら、もう我慢しなくていいんだね……?」
ラスさんはふっと目を細め、愛しげに私の頬に触れた。
ラス「キミを想うだけで、こんなにも胸が苦しくて。 今、オレの心は狂おしいほどキミを求めてる……」
(それは、私も同じ……)
恥ずかしさを堪えながら、こくりと頷く。
〇〇「本当はずっと、ラスさんに触れて欲しくて…ー」
言葉を遮るように、そっと指で唇を押さえられる。
ラス「……それ以上言わないで。 優しくしたいのに、できなくなる……」
〇〇「ラスさ…-」
吐息まで絡め取るような、深く甘いキスを落とされ……
夢中で互いを求めながら、倒れ込むようにベッドに身を投げる。
重なり合う肌越しに、ラスさんの熱い体温を感じながら……
彼がくれる甘い刺激に、すべてを溶かされていくのだった…-。
おわり。